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甲斐啓二郎「綺羅の晴れ着」

2023年05月15日号

会期:2023/03/25~2023/04/22

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

スポーツの起源というべき祭事を、世界各地で追い求めて撮影してきた甲斐啓二郎は、2015年頃から「裸祭り」を集中して撮影するようになった。今回展示されたのは、2017~2019年に撮影された「西大寺会陽」(岡山県)、「ざるやぶり神事」(三重県)、「ヤッサ祭り」(群馬県)、「黒石寺蘇民祭」(岩手県)の写真群である。

主に夜に、狭い室内で男たちが激しくぶつかり合うこれらの祭事には、ほかの行事にはない特徴がある。いうまでもなく、参加者全員が「はだか」であるということだ。そのことによって汗が飛び散り、怒鳴り声が飛び交い、濃密な体臭が立ちのぼる、異様にテンションの高い時空間が出現してくる。甲斐がこれらの祭りに魅せられ、ときには自分自身も「はだか」になって撮影を続けてきたのは、単純に被写体の面白さということだけでなく、そこに人と人とが接触するときに生じる、恐怖感と嫌悪感とエクスタシーとが混じり合った、ほかに類を見ない状況が生じるからではないだろうか。このような祭事は、なぜかほかのアジア諸国も含めて、日本以外ではほとんどおこなわれていないという。もしかするとそのあたりにも、日本人のやや異様な同調性、一体感の根拠があるのではないだろうか。本作は、限定された時空間における日本人のふるまいを、思いがけない角度から探求しようとする試みともいえるだろう。

大きめのプリントを中心に展示したZEN FOTO GALLERYのインスタレーションは迫力満点で、とてもうまく構成されていた。展覧会に合わせて刊行された同名の大判写真集(アート・ディレクション=山田洋一)も、印刷、デザイン、レイアウトともに素晴らしい出来栄えである。


公式サイト:https://zen-foto.jp/jp/exhibition/keijiro-kai-%E2%80%9Cclothed-in-sunny-finery%E2%80%9D

2023/04/12(水)(飯沢耕太郎)

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