artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
琴平プロジェクトこんぴらアート2008・虎丸社中
会期:12月12日~12月14日
虎丸旅館/琴平町公会堂[香川県]
近ごろホテルの客室を使ったアートフェアはよく見かけるが、旅館の和室を展覧会場にする試みはあまり聞いたことがない。これは、こんぴらさんで知られる金刀比羅宮の参道の虎丸旅館と、その近くの重文級の琴平町公会堂を舞台にした展覧会。出品は彦坂尚嘉、吉峯和美、糸崎公朗、廣中薫、澤登恭子ら19組。こうした展覧会の場合、ほかの場所でつくった作品をもってきて展示するだけでは、わざわざ見に行く価値がない。やはり琴平町という地域性や、旅館の部屋という空間性を生かしたサイトスペシフィックな制作が望まれるが、そういう作品はごくわずか。とはいえ、たとえば吉峯の作品は、17世紀オランダを思わせる油絵で和風旅館とはミスマッチなのだが、意外なことに大きさといい色合いといい図柄といい、和室にぴったり合う。一方、天井板にトマトやナスの模型を貼りつけた彦坂の作品は、若冲の天井画からヒントを得たのかと思ったら、ぜんぜん関係ないという。もっとも天井画は金刀比羅ではなく京都のお寺にあるのだが。いずれにせよ「今年はパイロット展」というから、次の展開を期待したい。
2008/12/13日(土)(村田真)
島袋道浩 展:美術の星の人へ
会期:12月12日~3月15日
ワタリウム美術館[東京都]
久々の日本での発表。ジャガイモが海のなかを漂い、魚に突かれる映像《シマブクのフィッシュ・アンド・チップス》、美術関係者に縁のないゴルフの練習場をつくった《やるつもりのなかったことをやってみる》、英語にしないとわからない《タマネギオリオン(Onion Orion)》、屋上に昇って見下ろすと、隣のビルに立っているビルボードの裏にゾウの後ろ姿の写真が見え、「パオ~」と鳴き声も聞こえてくる《象のいる星》など、ベルリンに行ってからもぜんぜん変わってないのがうれしい。やっぱりこれが島袋だ。
2008/12/12(金)(村田真)
時空の街──街の人
会期:11月26日~12月21日
テプコ浅草館1階[東京都]
東京芸大の彫刻科の12人が、上野・浅草界隈の下町文化を支える人たちと交流しながら制作した肖像彫刻展。落語家の古今亭圓菊師匠、浅草芸者の千晶、ほかに、てぬぐい屋、釜めし屋、どぜう屋、刃物屋の旦那衆がずらりと。おもしろいのは、木彫師の横谷光明を木彫で彫った肖像。まさか自分が木目もあらわな彫刻にされるとは思ってもみなかっただろう。
2008/12/12(金)(村田真)
螢座caravan
会期:12月5日~12月14日
本町実験ギャラリー[神奈川県]
BankARTスクール田中信太郎ゼミの受講生によるグループ展。ゼミは「手のひらサイズのワークショップ」だったので小品が多い。内容はともかく、展示はじつにすっきりとまとめられていて、まるで現代美術。ていうか、現代美術なんですけど、展示次第でワンランクもツーランクも上に見えてしまうところがスゴイというか、チョロイというか。これも信太郎マジックか。ちなみに受講生は、学生、市役所の職員、ジュエリーデザイナー、美術ジャーナリスト(ぼくです)などさまざま。
2008/12/09(火)(村田真)
ファン・ホーホストラーテン《部屋履き》問い直された観る人の立場
会期:12月6日~5月16日
ルーヴル-DNPミュージアムラボ[東京都]
ルーヴル美術館から借りた作品を素材に、DNP(大日本印刷)のメディア技術を駆使して多角的に分析・解釈しようという「ミュージアムラボ」の5回目。今回の作品は、絵画の黄金時代といわれる17世紀オランダの画家ファン・ホーホストラーテンによる風俗画だ。もともとこの作品は遠近法に基づき、多層的な空間構造を描き出しているので「科学的」分析には向いている。そのうえ、タイトルにもなった部屋履きをはじめ、ほうき、鍵、画中画などのモチーフが作品に物語的な奥行きを与えているため、「文学的」解釈の余地も十分にあるのだ。素材がよければ料理はシンプルなほうがいい。
2008/12/05(金)(村田真)