artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
田井幹夫/アーキテクト・カフェ《KEELS》オープンハウス
[東京都]
田井幹夫/アーキテクト・カフェによるコーポラティブ・ハウスのオープンハウスへいった。四谷の塔状住宅。構造・採光・通風・設備を担う複数の塔の周りにプランの異なる9つの住宅。ディベロッパーはアーキネット。赤いインテリアだったり、DJテーブルがあったり、それぞれの住戸に特徴があり、今後、居住者がお互いに訪問したら面白いだろうと思う。今回、オープンハウスで複数の住居を同時に見ることができたのは特殊な面白さだった。これも金比羅アートでの複数の客室を見る体験に似ている(オープンハウスは、通常、建築の竣工直後に一度きりしかない)。個人的には《KEELS》の横の、廃校となった小学校を利用した「東京おもちゃ美術館」も興味深かった。寄贈されたおもちゃなどを見ることができる。この元小学校の運動場があるために、《KEELS》には将来的にも視界が確保されている。
2008/12/20(土)(五十嵐太郎)
「都市を語る」(ヒルサイドカフェ連続セミナー)
会期:12月19日
ヒルサイドカフェ[東京都]
ヒルサイドライブラリーができたことがきっかけにはじまった、ヒルサイドカフェでの連続セミナー最終回。槇文彦、川本三郎、池内紀、植田実、篠山紀信、北川フラム、五十嵐太郎による「東京」のリレー形式のレクチャー。最終回は篠山×北川×五十嵐。篠山の発言が面白かった。懐かしい路地風景に興味はないとし、善悪を越えて東京が異様になっていることを楽しむという、超ポジティブな東京視線を提示した。バブル期の篠山の作品集『TOKYO NUDE』では、高崎正治の《結晶のいろ》という一度も使われずに破壊されることになったポストモダン建築のなかでモデルを撮影していた。篠山は「俺の写真に残るためにできた建物」といっていたが、確かに、スクラップ・アンド・ビルドの激しい東京においては、建築と東京の究極の関係を示唆していて興味深い。
2008/12/19日(金)(五十嵐太郎)
琴平プロジェクトこんぴらアート2008・虎丸社中
会期:12月12日~12月14日
老舗旅館「虎丸旅館」及び木造和風建築「琴平公会堂」[香川県]
美術家の彦坂尚嘉が金比羅で旅館を使ったアートイベントに参加するというので、そのトークに出席した。金比羅の上のほうでは鈴木了二の建築や、田窪恭治の襖絵があるなどハイ・アート的であるのに対し、今回は下のほうで違うかたちのイベントをやるという。ギャラリー・アルテという四国のギャラリーの女性ギャラリストが企画し、とら丸という旅館の各部屋に展示。宿泊施設をアートの展示に使うのは、東京のアグネスホテル、大阪の堂島ホテルなどでもあり、ベッドや浴室にアートがあったり、少しずつ間取りの違う同じフロアの部屋をすべて見たりする機会は、修学旅行でもないとできない体験。単純にアートがどうこういうより経験として面白い。 今回はその旅館版。木造和風の旅館で、日本の旅館に典型的な、でたらめな増改築がされたプラン。例えば2階に上がるのに四カ所くらい変なところに階段がついている。作家のなかにはその特性をうまく使う人と使わない人がいて、彦坂さんは結構うまく使っていた。二つの会場での展示があり、客室では天井にナスやトマトのオブジェ。彼の初期の作品はフロアー・イベントという床の作品だっただけに、面白い展開。他の作家と違い、床を占有しておらず、そういう意味だと興行的にもあり得る。もうひとつ公会堂でやっていたのは、皇居美術館空想の展開。ちょっとした体育館くらいの広さの空間の真ん中に、存在感のある皇居美術館の模型が置かれる。またその延長である帝国美術館空想も一部紹介。隣に糸崎公朗のフォトモの作品があり、壮大でグローバルな展開の彦坂さんと、ミクロな観察眼で虫や町並みの観察を行なう糸崎さんの展示が対照的だった。
2008/12/14(日)(五十嵐太郎)
Query Cruise Vol.1
会期:2008/11~2009/3
RAD room[京都府]
住所:京都市中京区河原町三条上がる一筋目東入る恵比須町531-13 3F
京都の真ん中、繁華街の近くに、京都工芸繊維大学を卒業したメンバーが、RADというグループをつくり、共同で所有している場所がある。下が中華の定食屋になっていて、三階に上ると設計事務所兼イベントスペースとなっている。Qeury cruiseは彼らが企画した連続イベントで、このスペースを利用して、五十嵐太郎、南後由和(社会学)、大屋雄裕(法哲学)の3人が5回ずつレクチャーをするもの。まだ始まったばかりだが、京都発なので、頑張ってほしい。彼らは京都工繊の時に年一度くらい同人誌をつくって建築批評などを寄せていた。今後の活躍が期待される。また、そこに出入りしている連中で、景観を配慮したためにヘンチクリンになってしまったメイド・イン・キョウト的な建築をコレクションしている人たちもいて、いずれ展示や書籍化されるだろう。
2008/12/12(金)(五十嵐太郎)
柴田敏雄 展──ランドスケープ
会期:12月13日~2月8日
東京都写真美術館2F展示室[東京都]
1980年代から、ダムサイトやコンクリートの土砂崩れ防止堰などの人工的な構築物を中心に撮影してきた柴田敏雄の、国内では初めての本格的な回顧展。92年に第17回木村伊兵衛写真賞を受賞した時のシリーズ・タイトルが「日本典型」であったことでもわかるように、柴田が被写体とする風景は日本各地どこででも見ることができる見慣れた眺めである。だがそれらが4×5や8×10インチの大判カメラで精密に撮影され、巨大サイズの印画紙にプリントされて展示されると、思っても見なかった感覚が生じてくる。それらがまるで現代美術のインスタレーション作品のような、精妙なバランスで組み上げられた造形物に見えてくるのだ。
今回の展示では、柴田の代名詞ともいえるモノクロームの「ランドスケープ」に加えて、2005年頃から発表されるようになったカラー作品もあわせて観ることができた。「作品」として厳密に構成されたモノクローム作品と比較すると、同じく人工的な「インフラストラクチャー」を題材にしていても、カラー作品ではかなり印象が違ってきている。そこには現実世界のリアルな色彩や触感が生々しく写り込んでおり、風通しのよい開放的な気分があふれていた。モノクロームの風景写真を30年近く続けてきて、柴田の中に「撮影しなかった、落としてきてしまった風景がある」という思いが強まってきたのだという。たしかに「回顧展」には違いないのだが、彼がまだ意欲的に新たな分野にチャレンジしていこうとしていることがよく伝わってくる展示だった。
2008/12/12(金)(飯沢耕太郎)