artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

Aプロジェクト

[東京都]

本号で紹介している二作、菊地宏《大泉の家》と長谷川豪《狛江の住宅》は、ミサワホーム東京のAプロジェクト(アーキテクト・プロジェクト)によるプロデュースである。プロデューサーは大島滋氏。大島は、例えばアトリエ・ワンの《ハスネ・ワールド・アパートメント》(1995)など、長年のあいだ、数々の建築プロデュースを手がけてきた。施主にとっては、どの建築家に頼めばよいか分からない場合、若手から大御所まで建築家に幅広いネットワークを持つ大島氏が、条件にあわせて最適な建築家を紹介する。長年そのコーディネートに携わってきた大島は、特にまだ実績の少ない若手建築家にも、多く実作の機会を提供してきたことでも知られる。大島はハウスメーカーのよさを活かしつつ、設計者が設計に専念できる環境を整え、施主と建築家を結ぶ役目を果たしている。実際の大島氏は、とても熱い。建築への強い愛を、建築プロデューサーという職業を通じて、かたちにしているのだ。


関連URL:http://www.a-proj.jp/test_site/

2009/01/17(土)(松田達)

竹中工務店《MOA美術館》

[静岡県]

竣工:1981年

熱海にある美術館。特にアプローチの空間が面白い。かなり険しい斜面の丘の上に美術館はある。入口は丘の下。長いエレベーターを乗り継ぎ、いったん円形ロビーで折れ曲がり、広場を越え、建物の下をくぐり、入口に到達する。上までのぼって振り返ると海が見える。エントランスは2階で、展示ルートをたどると1階に下りてくる。実際には車で行ったため丘の上の3階から入ってしまったが、ロケーションがこれほどよい建築も珍しい。内部では、秀吉の黄金の茶室も見ることが出来る。

2009/01/12(月)(松田達)

村野藤吾《箱根プリンスホテル》

[神奈川県]

竣工:1978年

円形という建築が、気になっていた。建築と円は相性が良いとは言えない。プランがつくりにくく、過度に幾何学的になりがちなため、どれも同じようになってしまう。にもかかわらず、僕自身が設計するときも、スタディ中のどこかの段階で、いつも必ず現われてしまう形態である。建築として成立させるためには、何らかの大きな飛躍が必要な、難しい形態であるため、形態の強さと単純さが、建築に勝ってしまう場合が多い。そのなかで、金沢21世紀美術館ほど、円形のプランが似合う建築はないと思っていた。しかし、村野の《箱根プリンスホテル》を訪れて、まったく別の可能性があることを知った。異様な存在感に圧倒されてしまった。中国の客家(はっか)のようなプロポーションの二棟の円筒形の客室棟が、湖を前に建っている姿は、言葉を失わせる幻想的なたたずまいだった。円形が有機的な形態全体を再統合していたことが、力強さを生んでいたのかもしれない。

2009/01/11(日)(松田達)

竹山聖+アモルフ《強羅花壇》

[神奈川県]

竣工:1989年

NPOの地域再創生プログラムのメンバーが企画した新年の箱根への建築ツアーにおいて、もっとも印象に残った建築。高級料亭旅館としても有名だという。アプローチからはほとんど外観が見られず、エントランスに入ると実は6階部分で、客室はそこから降りていく。120メートルあるという大列柱廊が圧巻。金融危機のまっただ中、バブルの絶頂期に出来た建築を見るというギャップが印象的だった。そういえば、これは一種のリゾート建築ともいえる。リゾート建築は、あまり建築の本流として語られない傾向がある気がするが、その源流ともいうべきジェフリー・バワや、オーストラリアのケリー・ヒルの建築と比較すると面白いのではないだろうか。あの列柱廊、どこかでリゾート建築として似たような形式を見たような気がするが思い出せない。

2009/01/11(日)(松田達)

『今日の建築』(Vol.001)

発行所:NAP建築設計事務所

発行日:2008年1月7日

中村拓志主宰のNAP建築設計事務所が発行するフリーペーパーNAP Timesの第二号として発刊。この号よりタイトルを「今日の建築」として、中村が建築家に連続インタビューをするという。Vol.001では、アトリエ・ワンの塚本由晴氏に「建築と社会」をテーマにロングインタビュー。現在、都内複数の書店などで手に入るほか、NAPのホームページからPDF版をダウンロードできる。二人のトーク自体、相当に面白いし、この手のフリーペーパーのなかで、デザインが群を抜いてよい。ところで、個人的には塚本と中村が「ふるまい」というキーワードで意見の大部分を共有している点が非常に興味深かった。生物の生態が「ふるまい」であり、塚本はそこから建物の「ふるまい」を考える。塚本は、「ふるまい」が面白いのは、生物の個体差を超えていく点だと指摘し、「繰り返し」や「反復」を前提にして「ふるまい」が生まれると語る。さらに塚本は、日本の変化し続ける住宅地から、変化してもその加速度は一定かもしれないという「動的なコンテクスト」を読み取り、そのなかにおける建築の可能性が示唆される。メタボリズムは、変化するコンテクストの状況に合わせて建物を新陳代謝させるため、つねにコンテクストの変化に対して遅れをとってしまう。しかし塚本のいう「動的コンテクスト」をふまえた建築というものは、コンテクストの時間的変化を先取りしているがゆえに、これまでの建築とは違うものになる可能性が語られる。塚本の射程は、個別の住宅の設計が、個別でありながらも都市的な風景を形作るような枠組みをつくることにも至っている。このような話はインタビューの一部に過ぎず、2万字に及ぶインタビューのなかに、いくつもの興味深いテーマを読み取ることが出来るだろう。今後の中村によるロングインタビューの展開も楽しみである。

2009/01/07(水)(松田達)