artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

西沢大良《駿府教会》

[静岡県]

《駿府教会》は、静岡駅からほど近い線路沿いに建つ、西沢大良による建築。立方体と大きな三角屋根の二つのヴォリュームが並び、外観は簡素だ。窓のない教会は閉鎖的だが、内部に入ると天井から明るい光が降り注ぐ。この手法は、宇都宮のSUMIKAプロジェクトでも用いられている。教会はいわば光に満ちた閉じた箱で、二重の皮膜となっている。両者の間は木造のトラスが組まれることにより、10メートル角の無柱の空間が生まれている。内側の箱は、微妙に間隔が変化させられたパイン材がルーバー上に並び、残響や光の状態を演出する。刻一刻と変化する光の状態により、ルーバーを通じてもれる光の影が、十字の形をつくる瞬間もあると、牧師から聞いた。カトリックのゴシック大聖堂のように劇的に人を驚かせるのではなく、いつも通うことで初めて空間の魅力を体感できるプロテスタントの教会である。

2008/12/29(月)(五十嵐太郎)

安井建築設計事務所《大洋薬品工業新本社》

[愛知県]

安井建築設計事務所の《大洋薬品工業新本社》を訪問。審査員を担当した愛知まちなみ景観賞で紛糾した、擬木による熱帯植物がガラスのアトリウムのなかにあるので、せひ実物を見たいと思った物件。ところが、年末の休みで、ブラインドをおろしていて街並みに見せていない。環境の影響が関係ない、偽物なんだから、もっと見せればいいと思う。それでもガラスに近づくと、植物が偽とわかる。かなりヘンなことを無意識にやっている。真面目なランドスケープからは噴飯ものの手法だが、だからこそ、実は可能性があったはず。

2008/12/29(月)(五十嵐太郎)

レム・コールハース:ア・カインド・オブ・アーキテクト(DVD)

[東京都]

レム・コールハースのドキュメンタリー映像。生い立ちから最新作の《CCTV》や建築以外の活動までを網羅的に紹介。異常に密度が高く、細々としたエフェクトなど映像としての手数も多く、情報量の高さ自体がコールハース的。コールハースを知らない人には教科書にもなるし、知っている人にとってもマニアックでレアな映像が多い。きっと売れるDVD。実際、ジャーナリストの頃に関わった映像作品や、シチュアシオニストのコンスタント・ニーベンホイスへのインタビューに影響されたことなどはあまり知らず、勉強になった。普通の建築ドキュメント映像に比べて変わっているのは、動線にそって空間体験を追体験させるような常識的な紹介が、ベルリンの《オランダ大使館》以外にはないところ。コールハースを通常の建築家として扱えないことは、タイトルにも現われている(一種の建築家)。浅田彰はコールハースをメディア・アーキテクトといったが、それでいえば、ル・コルビュジエ、アンドレア・パラディオの系譜につらなる。ル・コルビュジエは自らと近代建築を、メディアを利用してプロモートしたし、パラディオは、アルベルティと違い、建築書ではじめて自作を紹介した建築家。 ところで、同じアップリンクから、もう一枚今年発売される予定のコールハースに関するDVD『ハウス・ライフ』は、《ボルドーの住宅》を舞台に、家政婦の視線でひとつの建物を延々と撮った映像。このスロープをジグザグに上がると簡単だとか、ぶつぶつと家政婦の文句があったりする。ひとつの建物だけをくどいくらい紹介するという意味で、『ア・カインド・オブ・アーキテクト』とは真逆の視線だが、やはりいわゆる建築的な紹介作品ではなく、アーティスティック。

2008/12/24(水)(五十嵐太郎)

丹下健三《東京カテドラル聖マリア大聖堂》

[東京都]

1964年竣工の丹下の代表作を訪問。目白通り側から見たときの鋭角的なフォルムと、近づいたときの優美な曲線のフォルムが同形態。ポストカードの航空写真で見える十字形のフォルムはあまりにもシャープ。ひとつの形態から生まれているとは思えない複雑さ。しかし構成原理は明快。単純さが、複雑さを生み出している。同年竣工した《国立代々木競技場》と同じく、構造は坪井善勝。そして内部空間にも圧倒される。一歩一歩、空間の重みを感じる。クリスマス近くだったからか、運良くパイプオルガンの練習音が響いているのを聴くことができた。残響時間は7秒で、ヨーロッパの大聖堂に匹敵するという。何度行っても、心が洗われる。向かいにある椿山荘の庭園は、都心にいることを忘れる豊かな緑。

2008/12/23(火)(松田達)

第8回文化資源学フォーラム

会期:12月20日

東京大学本郷キャンパス法文2号館2大教室[東京都]

東京大学の木下直之研究室が2001年から開催しているフォーラム。大学院の講義で、学生に半期で何でもよいと企画をやらせ、その組み立ても自由。8回目の今年は展覧会とも組み合わせ、高速道路や東京タワーなど高度経済成長期の東京景観を再考するということで、五十嵐の講演では『ALWAYS』批判などを行なった。東京タワーは1958年完成のテレビ塔で、ちょうど開業50周年を迎えた。たまたま建築と映画の本を書いていてなるほどと思ったのだが、50-60年代はまだ娯楽が少なく、、映画が全盛だった。そのころにテレビ放送が開始され、映画が衰退していく。だからテレビというメディアを象徴する東京タワーは、映画を衰退させたシンボルでもある。しかし一方で、東京タワーの入場者数は2000年には最盛期の半分にまで落ち込んでいた。それを復活させたのは『ALWAYS 三丁目の夕日』やリリー・フランキーの『東京タワー──オカンとボクと、時々、オトン』など、映画と小説であったのは皮肉だ。

2008/12/20(土)(五十嵐太郎)