artscapeレビュー

柴田敏雄 展──ランドスケープ

2009年01月15日号

会期:12月13日~2月8日

東京都写真美術館2F展示室[東京都]

1980年代から、ダムサイトやコンクリートの土砂崩れ防止堰などの人工的な構築物を中心に撮影してきた柴田敏雄の、国内では初めての本格的な回顧展。92年に第17回木村伊兵衛写真賞を受賞した時のシリーズ・タイトルが「日本典型」であったことでもわかるように、柴田が被写体とする風景は日本各地どこででも見ることができる見慣れた眺めである。だがそれらが4×5や8×10インチの大判カメラで精密に撮影され、巨大サイズの印画紙にプリントされて展示されると、思っても見なかった感覚が生じてくる。それらがまるで現代美術のインスタレーション作品のような、精妙なバランスで組み上げられた造形物に見えてくるのだ。
今回の展示では、柴田の代名詞ともいえるモノクロームの「ランドスケープ」に加えて、2005年頃から発表されるようになったカラー作品もあわせて観ることができた。「作品」として厳密に構成されたモノクローム作品と比較すると、同じく人工的な「インフラストラクチャー」を題材にしていても、カラー作品ではかなり印象が違ってきている。そこには現実世界のリアルな色彩や触感が生々しく写り込んでおり、風通しのよい開放的な気分があふれていた。モノクロームの風景写真を30年近く続けてきて、柴田の中に「撮影しなかった、落としてきてしまった風景がある」という思いが強まってきたのだという。たしかに「回顧展」には違いないのだが、彼がまだ意欲的に新たな分野にチャレンジしていこうとしていることがよく伝わってくる展示だった。

2008/12/12(金)(飯沢耕太郎)

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