artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

《OM TERRACE》

[埼玉県]

仙台から埼玉へ移動する。同日に2都市間で演劇をハシゴするのはさすがに初めてだが、大宮駅東口に藤村龍至の《OM TERRACE》が完成していたので立ち寄る。場所は本当に駅前だった。トイレ以外の屋内空間がない1階と屋上だけの屋外施設であるにもかかわらず、エレベータも設置し、かなり空間に余裕をもった公共施設だった。ベンチ(ゆえに、排除型にならない)やサインも建築化し、確かに階段やテラスで人々がくつろいでいた。

2017/07/08(土)(五十嵐太郎)

千光士誠 母展

会期:2017/07/04~2017/07/09

ワイアートギャラリー[大阪府]

老齢の着物姿の母を、ハイライトを強調して描いた具象の肖像画。そのストレートさ、光と闇が交錯する劇的な構成が印象的だった。千光士の作品は2006年から2012年頃にかけて個展やグループ展で見ていたが、当時は墨を用いたダイナミックなドローイングで、本展の作品とは全然違っていた。また近年の彼は、一対一で対象と向き合う肖像画のプロジェクトを行なっており、ギャラリーで見る機会がなかったため、動向を掴めていなかった。久しぶりに再会した千光士は相変わらず精力的で、確信をもって自分が成すべきことに邁進していた。画風が変化したと言っても、彼のテーマは最初から「人間」であり、その意味では一貫した活動を続けているのだ。今後の活動予定については聞かなかったが、一対一のプロジェクトをまとめて発表する機会があれば面白いのではないか。もちろんほかの作品でも良いので、今後も展覧会活動を続けてほしい。

2017/07/06(木)(小吹隆文)

《あべのハルカス》

[大阪府]

《あべのハルカス》へ。日本は都市計画とランドマークが連動せず、なかなか眺めるための引きがとれないのだが、隣の広場「てんしば」からだと、《あべのハルカス》の外観がよく見える。内部に入ると、JCDデザインアワード2017で銀賞となった「BAKE CHEESE TART」の店舗もある。そして初めて展望台に登った。透明感あふれる開放的な空間である。ただし、建築土産を探したら、ミニチュアがほとんどないのが残念だった。代わりに、《あべのハルカス》のゆるキャラ、「あべのべあ」のグッズばかりで、これがアイコン建築として弱いことをうかがわせる。

2017/07/05(水)(五十嵐太郎)

JCDデザインアワード2017 2次審査

会期:2017/07/01

東京デザインセンターガレリアホール[東京都]

JCDデザインアワード2017の審査員を務めた。今回はあまり票が割れず、最後の投票は中村竜治の《JINS 京都 寺町通店》と、若手の百枝優による《丘の礼拝堂》の建築対決になった。時間と変化を取り込む、かなりひねた新築らしからぬデザインvs教会の建築史に接続しようとする新しい幾何学的な天井の違うタイプだが、結果は前者の圧勝である。ともあれ、21世紀以降の傾向だが、今年もインテリアデザインのアワードにおいて建築家が上位に食い込んだ。中村は3度目の大賞である。なお、五十嵐の個人賞としては、《黄金町バザール》を契機に誕生した柿木佑介+廣岡周平による斜めの壁を挿入したギャラリー、《黄金町の切込》を選んだ。このプロジェクトは森田恭通、香港のHorace Panからも個人賞に選ばれ、トリプルでの受賞、ならびに新人賞となった。金賞は逃したが、思いの強い3票を集めたわけである。ちなみに、「JCDデザインアワード2017」では、銀賞かつ新人賞で、五十嵐研出身の伊藤周平が、竹中工務店で担当した《女神の森セントラルガーデン》も入賞した。

2017/07/01(土)(五十嵐太郎)

《後山山荘》

[広島県]

鞆の浦の《後山山荘》へ。廃墟化していた藤井厚二の設計による彼の兄の家を、前田圭介が、残されたサンルームを復元しつつ、散らばっていた部材を活用しながら、現代的なテイストを加味した再生住宅である。これは大変なプロジェクトだ。この住宅は繊細な《聴竹居》よりもおおらかなサンルームで、海辺の眺望、風の入り方、庭から聴こえる水の音が心地よい。《後山山荘》は個人所有だが、見学会やイベントを催したり、さまざまな活用を試みており、今後どう残されていくかも興味深い。

2017/06/26(日)(五十嵐太郎)