artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

六日町の町屋

[山形県]

安藤忠雄事務所出身の矢野英裕による独立後第一作の事務所併用住宅を見学した。道路拡幅を受けた敷地であり、コンクリートの壁に挟まれた細長い3階建てのRC造である。施主の趣味を反映した家具の効果もあって、フロアごとに別世界が展開する一方で、吊った階段室や垂直の光庭によって縦方向にも空間を貫き、光を導く。交差点から見える、住宅のスケール感を超える長いコンクリートの壁の表情が興味深い。

2017/07/25(火)(五十嵐太郎)

《駅前広場コフフン》

[奈良県]

約10年ぶりの天理へ。新宗教建築研究で何度も足を運んだ都市だが、まさか現代建築を目的に再訪するとは思わなかった。nendoによる《駅前広場コフフン》が登場したからである。同心円の組み合わせだけの単純な造形であり、下手をすると学部のスタディで怒られそうなプランだが、いやいやアクティビティを引き出すことに大成功のデザインだった。久しぶりに、神殿へと続くアーケード街を歩く。シャッター商店街にならず、昭和的な店舗がよく残っている貴重な場所を維持できているのは、おそらく宗教の参道になっているからだ。とはいえ、それでも少し空き地が増えたような感じがする。背後を隠しつつ、小さな公共空間を設けるなど、空き地を感じさせない工夫をしていたが。

写真:右下=天理本通り商店街 ほかすべて=《駅前広場コフフン》

2017/07/23(日)(五十嵐太郎)

天理

[奈良県]

街の中心である神殿と教祖殿を見学する。ここは信者だけでなく、一般人にも開放されているので、是非オススメしたい。京都や奈良の社寺と違い、無料である。世界各地の宗教建築を見てきたが、東西南北の四方向から、信仰の対象である甘露台を拝む形式は、きわめてユニークなのだ。文化財でいばる社寺と違い、いつも生きた宗教を日本で感じることができる希有な空間である。初めて神殿を訪れたのは、22年前。座った信者たちが手踊りしながら「あしきをはろうて、助けたまえ、天理王のみこと」を歌う風景は変わらないが、前に聞いたことがない旋律が増えて(?)いたり、かなり洗練された歌い方にも遭遇した。長期間、反復と変容を重ねることで、宗教音楽は発達し、美しさを獲得する。

写真:上=天理教の神殿 下=おやさとやかた計画の建物

2017/07/23(日)(五十嵐太郎)

《春日大社国宝殿》

[奈良県]

天理から奈良に移動し、谷口吉郎による旧宝物殿を増改築した白い《春日大社国宝殿》へ。さすが隈研吾の事務所で《根津美術館》などを手がけた弥田俊男の監修だけにキレイである。内外でルーバーが活躍し、天井の照明もその隙間に巧みに埋め込む。このタイプの和を感じさせるデザインの手法は発明よりも、洗練の領域に達している。1階の導入部では、この手の施設にはめずらしく、メディア・アート的なインスタレーションをもうけていた。

写真:上3枚=《春日大社国宝殿》 左下=《春日大社》 右下=《春日大社国宝殿》内部のインスタレーション

2017/07/23(日)(五十嵐太郎)

《佐賀県立博物館》《市村記念体育館》《佐賀県立図書館》

[佐賀県]

佐賀にて、第一工房+内田祥哉による《佐賀県立博物館》と、坂倉準三による《市村記念体育館》へ。いずれもオブジェのような造形の外観だが、前回に佐賀を訪問したときは、内部までは見ることができなかった建築である。説明責任や社会性、あるいはコミュニティなどの前口上がなくても、カタチ一発で勝負できた時代の力強いデザインに惚れ惚れする。隣に連結する美術館も、博物館をリスペクトしたデザインだった。また第一工房+内田祥哉の《佐賀県立図書館》は、前日に見た《武雄市図書館》と比べると、ザ図書館というべき古いタイプの公共建築である。ただ、せっかく気持ちがよさそうなカフェがあるのに、肝心の祝日は休みなのが残念。内部も確かに《武雄市図書館》の方が涼しく過ごせそうなのだけど、蔵書はちゃんとしており、本来の図書館としてはこうあるべき姿を示す。

写真:左=《佐賀県立博物館》 右上2枚=《市村記念体育館》 右下2枚=《佐賀県立美術館》と《佐賀県立図書館》

2017/07/17(月)(五十嵐太郎)