artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
熊本地震、木造仮設住宅
[熊本県]
熊本へ。空港の近くで被災が甚大だった益城町のエリアは1年以上が過ぎ、激しく壊れた建物はもうあまり目につかなくなっているが、不自然なくらい真新しい道路、地盤や塀の破壊、使用停止になった庁舎、体育館、運動施設、そしておそらく大破し、住宅が除去された空き地などが、地震の記憶を想起させる。やはりプレハブの仮設が多いなか、ここでもいち早く間仕切りを避難所に設営していた坂茂による御船町の木造仮設住宅は、小さなコミュニティの場を中央に挟み、建築としても質が高い。ただし、これは例外的な試みとなっており、これがもっとシステム化され、社会で運用されるとよいのだが。
写真:上3枚=坂茂による木造仮設住宅 左下=破壊された地盤 右下=使用停止になった庁舎
2017/07/15(土)(五十嵐太郎)
《三角港キャノピー》
[熊本県]
三角港へ。葉祥栄による《海のピラミッド》を訪れるのは、25年ぶりか。フェリー航路がなくなり、現在は純粋なモニュメントと化したが、機能を喪失したことによって、円錐の内外に二重螺旋を描く明快な幾何学はむしろ強度を増した。今回は橋梁などの土木デザインで知られるローラン・ネイが設計した弧を描く《三角港キャノピー》の見学が目的である。これは葉の円錐との絶妙な形態の関係、一列の細い柱で屋根を支える構造美、風景の切り取り方が素晴らしい。また、すぐ正面に建つ三角駅はレトロ建築でかわいらしい。そして近くの小材健治による《漁業取締事務所》は攻撃的な造形だった。『建築MAP九州』では全然魅力的に紹介されていないが、三角西港のエリアがととてもよかった。世界遺産に指定されているが、ヘンに浮かれた感じもなく、落ち着いた街並みである。オランダ人技師と石工による明治時代の土木事業が丁寧で、石造の排水路やウォーターフロントの美しいこと。そして明治、大正にさかのぼる近代建築群も保存されている。国内において近代の港がこれだけ街ごと残っているケースはめずらしい。
写真:上=《三角港キャノピー》と《海のピラミッド》 左上から=《三角港キャノピー》の広場と駅、三角駅、三角西港の近代建築 右上から=《海のピラミッド》内部、《漁業取締事務所》
2017/07/15(土)(五十嵐太郎)
《宇土マリーナハウス》《宇土市立網津小学校》《宇土市立宇土小学校》
[熊本県]
熊本市内に向かう海辺の道路沿いにしょうもない建物やつぶれた店舗が続くなか、吉松秀樹によるストライプを施した《宇土マリーナハウス》は一服の清涼剤だった。坂本一成による《宇土市立網津小学校》は、集落のように連続するヴォールト屋根が印象的なデザインだが、現地を訪れると、周囲にビニールハウスが並ぶ風景のヴァナキュラー的な表現のように見える。そしてCAtによる《宇土市立宇土小学校》の外観は、強く主張しないが、階段を上って中庭群が見える2階レベルを散策すると、とても魅力的な空間であることに感心させられた(休日のために、子どもがまったく不在でもよいのだ)。威圧的になりがちな体育館のヴォリュームも巧みに全体の構成に組み込み、プールもカッコいい。ただし、教室には入ってないので、さまざまなに配置されたL壁の効果は確認できなかった。
写真:上3枚=《宇土市立宇土小学校》 左下2枚=《宇土マリーナハウス》 右下2枚=《宇土市立網津小学校》
2017/07/15(土)(五十嵐太郎)
関西学院大学 西宮上ケ原キャンパス
[兵庫県]
博士論文の審査のために、関西学院大学の西宮上ケ原キャンパスへ。時計台を中心にして、ウィリアム・メレル・ヴォーリズの手がけた建築群が囲む最初のエリアは、ちょっと日本の大学とは思えない、西洋的な雰囲気が漂う。古い建築を保存し、また新しい部分もヴォーリズのスタイルを踏襲し、かなり統一された景観を形成している。なお、本人も建築を学んだ経験をもつ松村淳の論文「現代日本における〈建築家〉の社会学的研究」は、社会学的なタームによって建築家の状況を整理したものだった。建築家のエートス養成の場を大学教育に求め、CADによる職能の変化を論じ、アンソニー・ギデンズの脱埋め込みと再埋め込みの枠組から、現在のコミュニティ・デザイン的な傾向を位置づける。
2017/07/10(月)(五十嵐太郎)
東京都復興記念館
東京都復興記念館[東京都]
今日はBankARTスクール生と両国界隈の美術館・博物館探訪。最初は復興記念館で待ち合わせたのに、暑いせいか集まりが悪い。ここは関東大震災(1923)の犠牲者を追悼する震災記念堂の附属施設として、震災の惨禍を伝える目的で1931年に建てられたもの。その後、震災記念堂は東京大空襲などの戦災の犠牲者も追悼するため東京都慰霊堂に改称、復興記念館も戦災関連の資料を追加した。設計は伊東忠太+佐野利器。慰霊堂も伊東忠太の設計で、どちらも軒下あたりにガーゴイルみたいなモンスターが装飾されている。入場無料。
まず1階の陳列室に入ると、震災の被害状況を示す写真や地図やデータが展示され、震災後の大火で焼け出された食器、服、眼鏡、硬貨(溶けて塊になっている)などの日用品が並ぶ。広島平和記念資料館の被爆遺品もすさまじいが、破壊力の違いはあれど高温で焼けたり溶けたりした姿は変わりない。2階へ上がると、中央に震災を描いた絵画や復興状況を伝える都市の模型などの陳列室があり、それを囲むように回廊が設けられ、資料やデータが展示されている。絵画は記念碑的な目的で制作されたのだろう、超大作が多い。作者は徳永柳洲のほか有島生馬もいる。ほぼ同時代の聖徳記念絵画館の壁画やこうした震災画が、後の戦争画の原点になっているのかもしれない。模型のほうは復興記念展や博覧会に出されたもので、背景画を組み合わせたジオラマもある。戦前の世相などもしのばれてとてもタメになった。
2017/07/08(土)(村田真)