artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

《山元町立山下第二小学校》《南相馬みんなの遊び場》《あぶくま更正園》

[宮城県]

被災地のプロジェクトを3つ見学する。いずれも素晴らしい作品であり、ようやくデザインのクオリティを備えた復興建築が登場してきた。まず佐藤総合と末光弘和+末光陽子による《山元町立山下第二小学校》は、断面の操作に伴う環境調整のスペックはデータでも理解できるが、ユニット群が中庭ひとつを囲む構成によって学校が成立する、木の小さい空間がもたらす親密なスケール感は現場を訪れないとわからない。隣接施設も彼らが手がけたというが、周囲は完全に津波被災によって移転したニュータウンであり、ここが今後のコミュニティの核となるだろう。
続いて、柳澤潤+伊東豊雄による《南相馬みんなの遊び場》は、原発事故が引き起こした放射線量ゆえに、子どもが屋外で安心して遊べない状況から求められた屋内型砂場という希有なビルディングタイプだった。かわいらしい2つの屋根の下に、ひょうたん型プランの砂場がある。柱と屋根の木造架構が、室内において建築的な存在感をもち、安心感を与えるとともに、周囲に張りめぐらせた開口は安東陽子のカーテンでやわらかさを演出している。
宇野享/CAnの《あぶくま更正園》も、原発に近いために移転や仮設を余儀なくされていた障害者施設の復興建築である。10の個室群×3(男性)、ないし2(女性)がそれぞれ昼間を過ごす共有空間を囲む。特徴的なのは、さまざまな大小の屋根を組み合わせ、広さ以上に気積を確保しつつ、ゆったりとした余裕をもたせ、同時に施設であることを感じさせない、家の集合体のような空間を実現したことだろう。

写真=上から、《山元町立山下第二小学校》《南相馬みんなの遊び場》《あぶくま更正園》

2017/08/14(月)(五十嵐太郎)

《聖心堂》

[中国・広州市]

広州の市場を抜けて、《聖心堂》へ。19世紀後半に建設されたカトリック教会でかなり本格的なゴシック様式である(西欧に比べると小さいけど)。残念ながら内部は入れなかった。外部の彫刻装飾の少ないところは、日本のウエディング・チャペルにも共通する。なお、手前に洋風の建物群が対称に並び、その奥に教会が建つので効果的な景観だった。続いて、出島のような一角だった沙面を散策する。イギリスやフランスの租界だったことから、近代の様式建築が多く残っていた。角地に建ち、ドームを頂く旧香港上海銀行、そのはす向かいの旧ドイツ領事館、修復中の旧インドシナ銀行、ベランダ式の古典主義による旧フランス士官宿舎などである。それにしても、暑いときに歩くと日陰をつくるベランダ式のありがたさがよくわかる。

写真:上2枚=《聖心堂》 左上2番目=沙面の地図 左下=《旧香港上海銀行》 右下2番目から=《旧ドイツ領事館》《旧フランス士官宿舎》

2017/08/09(水)(五十嵐太郎)

陳氏書院、六榕寺、懐聖寺

[中国・広州市]

まとめて幾つかの古建築をまわった。陳氏書院は、頭上の激しい装飾に圧倒されるが、プランはシステマティックであり、理念的な建築だった。光孝禅寺は、唐様の木造寺院であり、組物のあいだを壁で埋めていないので、屋根や2層目が浮いたように見える。また六榕寺は多角形プラン、9層の塔が目立つ。特に初層の外周天井が興味深い。外から見上げると、垂木が軒先よりはみ出てるようだった。電気街に近い懐聖寺は、モスクである。本体は中国建築と似ているが、道路側のミナレット(光塔)の造形が非中国的だろう。そして五仙観は、階段をのぼって奥に突然あらわれる赤い鐘楼がデカい。ここの展示には、昔の広州の都市模型がある。無料の施設ゆえか、近所の人のたまり場になっている。

写真:上から2枚ずつ=《陳氏書院》《光孝禅寺》《六榕寺》《懐聖寺》《五仙観》

2017/08/09(水)(五十嵐太郎)

西関大屋

[中国・広州市]

西関大屋では、近代建築がよく残るストリートが幾つかあって、街歩きが目を楽しませる。確かに、ファサードを観察すると、三重の扉が特徴的だった。ここでは西洋の様式が異文化のなかで変容しながら根付いている。もし26年前に広州を訪れていたら、こうした近代建築群の街並みだけを見ていたはずだが、いまやポストモダンを飛び越え、現代のアイコン建築と同居する大都市に変貌したことは感慨深い。

2017/08/09(水)(五十嵐太郎)

中国・広州

[中国・広州]

中国の広州へ。本当は1991年に初訪問の予定だったが、中国を1カ月旅行していたために疲労が蓄積し、上海から直接船で香港に向かってしまい、今回が初めてとなった。おかげで、その後につくられたアイコン建築群や超高層ビルと近代建築が共存する広州を見学できた。まずは現代建築群が林立する珠江新城に向かう。高さ600mの広州タワーの展望台から眼下を見下ろす。バロック的な軸線に貫かれた珠江新城から天河エリア(文化運動施設やビジネス街)の未来的な風景は、もう日本の先にいっていると感じる。なお、タワーはアイコン的な造形ゆえに、おみやげの建築グッズもいろいろ販売していた。

2017/08/08(火)(五十嵐太郎)