artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

山田郁予 展 いいわけ

会期:2009/01/10~2009/02/07

高橋コレクション[東京都]

トレーシングペーパーをつなぎ合わせた巨大な画面に描かれた少女マンガ的な女性像。半透明の紙にのせられた淡い色彩がいかにも内向的で繊細な精神性を物語っているが、ペーパーをくしゃくしゃにして皺だらけにしているところが暴力的な苛立ちを感じさせる。ファイルには絵とともにメッセージが書きつけられていたが、会田誠が「殺伐とした言葉と同居する一種のユーモア感覚」と評しているように、むしろ言葉のセンスのほうが光って見えた。相田みつをのネガとしておもしろい。

2009/01/31(土)(福住廉)

久保田弘成 展 泥匂崇拝──アイルランド廻車報告

会期:2009/01/23~2009/02/04

MAKII MASARU FINE ARTS[東京都]

久保田は、車の中央部にシャフトをぶち込み、外に移したエンジンによってその車体を回転させるアーティスト。会場には、吉田松陰の図像を塗りつぶした刺青を背中に、ふんどし一丁の久保田が、北島三郎や細川たかし、前川清といったド演歌をガンガンに鳴り響かせながら、アイルランドの地でフォード車をぐるんぐるんとまわす公開パフォーマンスの映像などが発表された。意気揚々とアクセルを吹かし続けるその姿は、圧倒的にバカバカしく、だからこそ痛快であり、抜群にかっこいい。横浜で発表される予定だという次回作を期して待ちたい。

2009/01/31(土)(福住廉)

松本央 展「PROTOZOA」

会期:1/27~2/1

アートスペース虹[京都府]

京都市美術館の卒業制作展の会場にも大作が二点展示されていたが、こちらは自宅で撮影した自身の写真をもとに数カ月をかけて描いたという自画像。松本はこれまでずっと自画像を描いている。モチーフを他人に変えて描いてみたこともあったが、なんだか描いているとモデルへの「遠慮」が入って納得できるものがなかなかできなかったからだという。以前の作品ファイルを見せてもらった。面白いほどにテクニックの上達過程がうかがえる。自画像はよくあるし、たしかに巧いけれどそれだけではない魅力を放っている。技術にも自画像にも若い時代の苦悩や成長が瑞々しく表われているせいだろうか。

2009/01/31(土)(酒井千穂)

京都精華大学芸術学部卒業・大学院修了制作展

会期:1/28~2/1

京都市美術館[京都府]

卒業制作展の季節で京都市美術館も賑わっていて、いつもとは少し違う雰囲気に包まれている。卒業制作展を見るのは好きだが、その質はどの大学を見ても毎年少しずつ下がっていると感じるのは気のせいだろうか。今年の精華大学の制作展で力が入っていると感じたのはほとんどがデザイン科の学生の作品だった。なかでもプロダクトデザイン学科の前田直希の作品、幼稚園児の災害時避難用スーツはコンセプトもデザインも秀逸で、すぐにでも商品化できそう。クマ(熊)をイメージした防災ジャケットのフードには、暗いところでも存在が確認できる蛍光シートのついた「耳」がついていて、集団行動がとりやすくなっている。かわいらしいヴィジュアルイメージだが、丁寧な工夫と努力がうかがえるデザイン。災害時の想像は誰にとっても楽しいものではないし、楽しむものでもないだろうが、防災具類が機能的でかつ楽しいという要素をもっているということは、いろいろな場面で影響してくるはずだ。それを充分に踏まえている(と思う)点もうかがえて、会場でも際立っていた。

2009/01/31(土)(酒井千穂)

松延総司「Nissed」

会期:1/27~2/1

立体ギャラリー射手座[京都府]

どんな意味なのだろうかと気になっていたが、展覧会タイトルはDessin(デッサン)を逆表記したものなのだそう。3次元のものをできるだけリアルに2次元に表現するデッサンとは逆に、3次元のものを用いて、2次元的な視覚効果をもたらす表現を試みるというので楽しみにしていた。筆を洗う黄色いプラスチック製の水入れやトイレットペーパー、ビールケースなど、さまざまな物が、マンガの輪郭線のように黒いテーブで縁取られて展示されていた。その狙いどおり2次元的な視覚効果を感じられたかというと、会場のライティングの加減があまく、中途半端な影をつくっていたせいか微妙だ。とはいえ、使用された量産品のピックアップも面白く、興味深い試みだと思った。これからも追究してぜひ極めて欲しいところ。また見たい。

2009/01/31(土)(酒井千穂)