artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
MOMAT コレクション 特集:藤田嗣治、全所蔵作品展示。
会期:2015/09/19~2016/12/13
東京国立近代美術館 所蔵品ギャラリー[東京都]
東京国立近代美術館では、2フロアを使う常設の特集「藤田嗣治、全所蔵作品展示。」が圧巻だった。企画展のような存在感である。ただし、生涯すべての作品がまんべんなくあるわけではなく、彼がブレイクする前のパリ時代の試行錯誤や器用な模倣などの作品はない。戦後に批判されることになったが、やはり、結果的に社会と絵画の「歴史」と接続してしまった巨大な戦争画は彼のキャリアにおいて頂点というべき作品だと思う。
2015/12/02(水)(五十嵐太郎)
Re: play 1972/2015 ─「映像表現’72」展、再演
会期:2015/10/06~2016/12/13
東京国立近代美術館 企画展ギャラリー[東京都]
京都で開催された「映像表現’72」展の再現を試みた企画である。永続的に残っていく絵画や彫刻と違い、モノとして残らない映像のインスタレーションをどう復元するかが興味深い。回廊のようになった周囲の通路に当時の資料と復元のための探求プロセスなどを配し、中央には京都の会場を90%に縮小再現した場を設けている。西澤徹夫が会場構成を担当しているが、気づくと国立近代美術館で彼の手がけた展示デザインを結構見ている。これも建築家の新しい仕事だろう。
2015/12/02(水)(五十嵐太郎)
廣江友和「Hellish Toy Story──地獄草紙より」
会期:2015/11/20~2015/12/05
メグミオギタギャラリー[東京都]
《地獄草紙》に描かれた火炎をモチーフに、フィギュア風の兵隊を立体的に描き加え、やまと絵のフラットな表現と西洋の3次元的描写を共存させている。壁には火炎と鳥獣戯画風の動物たちを直接描いた壁画も。奇妙なのは、絵全体をビニールでぴったり包んでいること。画面を守るためのニス代わりらしいが、なんか工業製品みたい。それはともかく、この展覧会を見に行ったのは、DMにも使われていた藤田嗣治の《アッツ島玉砕》のパロディがあったから。《アッツ島玉砕》に描かれた兵士たちを地獄草紙の餓鬼どもとフィギュアの兵士に置き換えたもので、立体感のあるフィギュアが米軍、平坦な描写の餓鬼どもが日本軍か。いまや《アッツ島玉砕》も気軽にパロれる素材になったようだ。というわけで、今日は藤田特集でした。
2015/12/01(火)(村田真)
小沢剛展 帰って来たペインターF
会期:2015/10/23~2015/12/27
資生堂ギャラリー[東京都]
パリで名声を確立した「ペインターF」は戦争勃発で日本に戻り、戦争画を制作。終戦になるとパリならぬインドネシアのバリ島に赴き、そこで人生を全うした。……はずなのに、数十年後ふたりのFが帰国して、再び戦争が勃発。ひとりは逃げ、ひとりは芸術の力で平和な世界をつくろうとしたが、うまくいかなかった……といったストーリーを、ふたりのインドネシアのストリートペインターに4点ずつ描かせている(前半の4点はほとんどモノクローム、後半は着色だが、時間が足りなかったのか中途半端に終わっている)。各画面は戦争画の標準サイズとほぼ同じ200号程度。「ペインターF」とはもちろん藤田嗣治のことだが、最後に付け足しのように登場するふたりのFは、藤田のように時代の波に乗ることができなかったアーティストの選択肢を示しているようだ。それにしてもゆるいなあ。物語から作品制作まで多くの人とコラボレーションしたせいか、ストーリーもゆるいが、絵もゆるい。このゆるさが小沢らしいといえばらしいけどね。
2015/12/01(火)(村田真)
MOMATコレクション「特集:藤田嗣治、全所蔵作品展示。」
会期:2015/09/19~2015/12/13
東京国立近代美術館[東京都]
東近が所蔵する藤田作品25点に、京近の1点を加えた展示。このなかにはアメリカから永久貸与された戦争記録画14点も含まれており、その一挙公開は初めてのこと(ちなみに別の展示室の鶴田吾郎の《神兵パレンバンに降下す》を含めて、戦争記録画15点の展示は過去最多)。展示はパリで第1次大戦末期に描かれた暗い風景画から始まり、人気を博した乳白色の裸婦や南米の人々のスケッチを経て、幅5メートルを超す巨大な《南昌飛行場の焼打》から戦争画に突入。《哈爾哈河畔之戦闘》《ソロモン海域に於ける米兵の末路》《アッツ島玉砕》《サイパン島同胞臣節を全うす》あたりは比較的よく紹介されているが、末期の暗い《大柿部隊の奮戦》《ブキテマの夜戦》《薫空挺隊敵陣に強行着陸奮戦す》などは初めて見る。小磯良平や宮本三郎の戦争画は「うまいなあ」とは思うけどどこかウソっぽさが感じられるのに対して、藤田の戦争画は逆に壮大なウソっぽさに真実が秘められているようなところがある。戦争画は全26点中14点だから5割強だが、見終わってみれば9割方が戦争画に占められていたような錯覚に陥るほど圧倒的な存在感を放っている。それはサイズが大きいこともあるが、なにより白の多い20年代とは違って画面が濃密であり、また描かれた目的が明確であるからだろう。にもかかわらず小磯や宮本とは違って、自虐的とも反戦的とも受け取られかねない多義的な読みを許す曖昧さがある。この一筋縄ではいかないぬえのような多面性こそ藤田たるゆえんだろう。
2015/12/01(火)(村田真)