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美術に関するレビュー/プレビュー

ジョルジョ・モランディ ─終わりなき変奏─

会期:2015/12/08~2016/02/14

兵庫県立美術館[兵庫県]

卓上の静物画や風景画など、限られた主題を描き続けたことで知られるジョルジョ・モランディ(1890~1964)。筆者は、25年前(1990年)に京都国立近代美術館で行われた個展で、はじめて彼を知った。その際、変奏曲のように少しずつ姿を変えていく静物画に深く感じ入ったことを、今でも鮮明に覚えている。彼の作品は具象画だが、絵画を構成する種々の要素を分解・再構成した趣があり、抽象画やコンセプチュアルアートとして解釈することもできる。その多面性・奥深さが当時の自分を捉えたわけだが、四半世紀の年月を経て再会したモランディの作品は、当時と同じ輝きをもって眼前に鎮座していた。本展に限らず、著名な美術家の企画展は数十年に一度しか行なわれないケースがままある。気になる企画展は無理をしてでも見ておくべきだと、あらためて実感した。

2015/12/11(金)(小吹隆文)

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シェル美術賞展2015

会期:2015/12/09~2016/12/21

国立新美術館 1階展示室1B[東京都]

若手作家の絵画を顕彰するシリーズである。今年はグランプリはなく、多彩な素材を重層する細密の石井奏子《雪の研究》と矢島史織《モンスター》が準グランプリだった。また静岡CCCの公募企画のときに選んだスケール不在の風景を描く伏見恵理子が、アーティスト・セレクション枠で展示していた。

写真:上=伏見恵理子、下=石井奏子《雪の研究》

2015/12/11(金)(五十嵐太郎)

ニキ・ド・サンファル展

会期:2015/09/18~2016/12/14

国立新美術館[東京都]

ニキは、家庭の母であることをやめて、絵具入りの缶やオブジェに向かって、銃を放つ射撃絵画でデビューした後、フェミニズム的な視点から読み解ける作品や、大がかりな彫刻庭園を展開した。また日本との交流も紹介している。いわゆる美や洗練に向かうのではない、アウトサイダー的なパワーだが、彼女が感銘を受けたガウディの影響が晩年まで続く。1960年代には北欧で開催した個展において、内部に入れる巨大女性型のインスタレーションも発表している。

2015/12/11(金)(五十嵐太郎)

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青木野枝 Plasmolysis

会期:2015/12/05~2016/01/16

ギャラリーハシモト[東京都]

彫刻家による版画展。タイトルの「プラズモリシス」とは、植物細胞において細胞壁と細胞膜が分離する現象のことで、「原形質分離」ともいうそうだ。なんのことかさっぱりわからないが、最近の彫刻シリーズ「プロトプラズム(原形質)」と関連しているらしい。実際ヒトデや細胞の集まりみたいな有機的形態はいかにも「原形質」っぽい。ほかにもひとまわり小さい「桃符」シリーズもあって、こちらはカラフルでより軽快な木版画。

2015/12/10(木)(村田真)

岡部桃「Bible & Dildo」

会期:2015/11/26~2016/12/22

成山画廊[東京都]

岡部桃が2014年に刊行した『Bible』(SESSION PRESS)は、正直気持ちが沈み込む写真集だ。性転換手術後の生々しいイメージに、3・11以後の被災地やインドの光景が混じりあい、重なり合う。赤っぽいハレーションを起こしたような色味に染め上げられたプリントも、吐き気がするようなおぞましさだ。だがそれらの鈍い痛みをこれでもかこれでもかと送り込んでいる写真群を見ているうちに、なぜか奇妙に静まりかえった、柔らかな微光に包み込まれた世界に連れて行かれるような気がしてくる。見続けているのがつらくなるようなイメージの羅列には違いないのだが、そこにはたしかに「これでいいのだ」という肯定感が漂っているのだ。
岡部は1981年、東京生まれ。1999年に写真新世紀で優秀賞(荒木経惟選)を受賞し、2001年には写真ひとつぼ展に入選して注目されるが、その後日本での発表は滞り気味だった。2013年に発表した写真集『Dildo』(SESSION PRESS)と『Bible』がアメリカやヨーロッパで反響を呼び、2015年にはオランダの「Foam’s Paul Huf award」を受賞するなど、その「痛み」に肉薄する表現のあり方が、むしろ海外で高く評価されるようになった。今回の成山画廊での展示は、「深く愛した恋人との家族写真、記憶の記録」である「Dildo」と「死に対する絶望と恐怖」に彩られた「Bible」とが合体した構成であり、点数は12点と少ないが、テンションの高い作品が並んでいた。もう少し大きな会場での展示もぜひ見てみたい。

2015/12/10(木)(飯沢耕太郎)