artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

散歩の条件

会期:2015/12/01~2015/12/06

ギャラリーすずき[京都府]

1983年代以来、関西の現代美術シーンを牽引してきたギャラリーすずきが、昨年12月をもって32年間の活動に幕を下ろした。本展はその最後を飾る展覧会だ。出品作家は、井上明彦、今村源、日下部一司、三嶽伊紗の4名。画廊内には今村のディレクションにより大きな構造物が構築され、その周辺に各自の作品と、本展のために実施した散歩の記録などが配置された。散歩とは時間の痕跡を巡る旅であり、そこには4作家の制作姿勢と共通するものがあるということだろうか。本展はもともと画廊の幕引きのために企画されたものではなかったので、特別なセレモニーは行なわず、いつも通りに淡々と会期を終えた。その潔い姿勢に画廊と作家たちの美学を感じた人も多いだろう。今はただ「32年間お世話になりました」と言うしかない。幸い京都では後進の画廊が育っている。次の時代は彼らが作ってくれるはずだ。最後に一つだけリクエストを言わせてもらうと、画廊の歴史をまとめて出版あるいはウェブ上で公開してくれないだろうか。ギャラリーすずきの存在を後世に残すために、アーカイブは必須である。

2015/12/01(火)(小吹隆文)

A-Lab Exhibition Vol.1 まちの中の時間

会期:2015/11/29~2016/01/11

あまらぶアートラボ A-Lab[兵庫県]

兵庫県尼崎市の、阪神尼崎駅から北東に徒歩約15分の場所にある旧公民館が、アートセンターとしてリニューアルオープンした。「あまらぶアートラボ A-Lab」と名付けられたこの施設では、今後ワークショップなどの体験型企画を中心に、美術展も織り交ぜて活動して行く。その開館を記念して開催された本展では、ヤマガミユキヒロ、小出麻代、田中健作の3作家が出品。ヤマガミは鉛筆画と映像を融合した「キャンバス・プロジェクション」なるオリジナルな表現を展開し、小出は、和室、ベランダ、倉庫という異なる3つの空間でインスタレーションを創出、田中は東日本大震災の津波被災地を取材した写真作品などを発表した。この3作家は今後1年間をかけて地域を取材し、2016年度以降に「まちの中の時間」をテーマにした新作個展を同地で行なう。こうした継続的な企画と、地元民を対象としたワークショップ等の活動を地道に続けていくことが、この施設の独自性を高めるであろう。小さくとも実りのあるアートスペースとなることを期待している。

2015/11/29(日)(小吹隆文)

第10回アトリエの末裔あるいは未来

会期:2015/11/20~2015/11/29

東京藝術大学大学美術館陳列館+旧平櫛田中邸[東京都]

藝大の陳列館と、近くの平櫛田中の旧宅を会場にした彫刻展も10回目。今回はこれまでの出品者も含めた展示で、とくに陳列館のほうは2フロアに70人もの小品が並べられ壮観だ。木の塊からカリフラワーと台座を彫った内田麻ゆ、雑巾のようにボロボロになった人工芝を彫った田中圭介、木の突起を何百本も放射状に固めて《うに》と題した大野匠、田中の《鏡獅子》をオカマ化した根上恭美子、初音ミクを黒人化して《初音モク》にした大平龍一、うねるような木の根っこにうねるような髪の毛みたいな模様を彫りつけた木戸龍介、落下中のテナガザルをキングコングにダブらせたビル・ウォルフ、スケートボードを細かく刻んで高さ70センチほどの塔に積み上げた増井岳人、石膏でつくった手の彫刻に木目模様を描いて木彫に見せかけた宮原嵩広など、なんでこんなもの彫るかなあ的なトボケた作品が多くて楽しめた。田中邸のほうは、雲のような盆栽(盆栽のような雲か)を彫った海谷慶、木の台座の上にマックロクロスケを置いた森淳一、細長い棺桶のような木箱をつくった福迫大智、階段を下りるときにしか見られない場所に妖怪みたいな彫刻を置いた大石雪野など、木造家屋の空気を読んだ作品が多い。木彫の概念を更新させる反伝統主義のいい展覧会だ。ずっと続けてほしい。

2015/11/29(日)(村田真)

忘れたと思った?

会期:2015/11/26~2015/12/06

東京都美術館ギャラリーA[東京都]

吹き抜けの巨大空間を使用したもうひとつのグループ展。こちらは床に写真をばらまいて土足もお持ち帰りも可としたり、女性が穴を掘る映像を映し出すテレビモニターを置いたり、道で拾ったメモを額装して壁に展示したり、壁の穴に野球ボールを突っ込んだり、いろんなことやっている。そのわりに空間がスカスカなのは、会場でキャッチボールするパフォーマンスが行なわれるせいかもしれない。そもそも10個のパフォーマンスをするつもりだったのにほとんどが却下され、唯一許されたのがキャッチボールだったという……。どんなパフォーマンスをやるつもりだったんだろう。でも美術館内でキャッチボールできるってだけでもスゴイかもね。まあなんかどうも空振りな展覧会。

2015/11/29(日)(村田真)

東北画は可能か?──地方之国構想博物館

会期:2015/11/26~2015/12/06

東京都美術館ギャラリーB[東京都]

都美が選んだグループ展のひとつ。これは濃密な展覧会。「東北画」とは東北芸工大日本画コースの三瀬夏之介を中心に、在学生や卒業生が集まってスタートしたチュートリアル活動。世界の辺境である日本、の辺境である東北において絵画は可能か?日本画は可能か?を問う活動を進めてきたが、2011年の3.11以降じわじわと存在感を増し、注目を集めるようになった。今回は個人の作品も展示されてるが、《東北山水》をはじめ共同制作による数点の大作が目を引く。これらは東北をモチーフにした幻想的な風景画をシートに描いたもので、地方限定モチーフといい、日本画家によるコラボレーションといい、枠に張らないシートの展示といい、これまでの現代美術のグローバル志向を引っくり返すポテンシャルをはらんでいる。

2015/11/29(日)(村田真)