artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
カタログ&ブックス|2016年08月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
TOKYOインテリアツアー
東京のインテリアデザインと都市との関係をあきらかにする考現学的ガイドブック。
銀座、丸の内、原宿、中目黒など9つのエリアを対象に97のインテリアをイラストとテキストで紹介します。
本書に掲載されたショップやカフェ、ギャラリースペースなど、誰もが体感できるインテリアを眺めてみると、めまぐるしく変わるインテリアの集積として立ち上がる東京の姿が浮かび上がってくるでしょう。
これまで詳細なリサーチのなかったインテリアデザインを鑑賞・分析の対象として見せ、都市遊歩の魅力を刷新する1冊です。
トーキョーワンダーサイト アニュアル 2015
東京を拠点に、公募展、レジデンス事業、若手クリエーターの発掘事業などを手がけるトーキョーワンダーサイト。本書はその2015年度の活動記録集として出版された。1年間に行なわれた全事業の詳細や参加アーティストのプロフィール、公募展の審査員レビューのほか、ディン・Q・リーら6名のアーティストへのインタビューを収録。
インドネシア ファッション─海のシルクロードで花開いた民族服飾の世界─
2016年7月から翌月にかけて、日本・インドネシア共和国国交樹立60周年を記念し町田市立博物館で開催された「インドネシア ファッション─海のシルクロードで花開いた民族服飾の世界─」展の公式図録。インドネシア地域の研究者である戸津正勝氏が監修を行ない、氏が40年にわたって蒐集した服飾資料が展示された。本書には、出展された資料図版のほか、戸津氏による論考・解説が収録されている。
森村泰昌:自画像の美術史─「私」と「わたし」が出会うとき
2016年4月から6月にかけて、大阪・国立国際美術館で開催された「森村泰昌:自画像の美術史─「私」と「わたし」が出会うとき」展の公式図録。国際的に活躍する森村の地元である大阪の美術館では、初の大規模個展となった。森村の代表作である、自身が歴史上の有名人に扮するセルフ・ポートレイト作品、約100点にも及ぶカラー図版のほか、森村とドミニク・ゴンザレス=フォルステルと往復書簡を収録。
あゝ新宿─スペクタクルとしての都市
1960年代、新宿は明らかに若者文化の中心だった。紀伊國屋書店、アートシアター新宿文化、蝎座、新宿ピットイン、DIG、風月堂、花園神社、西口広場……。そこには土方巽、三島由紀夫、大島渚、唐十郎、寺山修司、横尾忠則、山下洋輔らさまざまな芸術文化の担い手たちや若者たちが集結し、猥雑でカオス的なエネルギーが渦を巻いていた。新宿という街自体がハプニングを呼び込む一つの劇場、一つのスペクタクル、あるいは一つの祝祭広場を志向していたのだ。では、現在の新宿はどうか。かつてのようなエネルギーに満ち溢れた新宿独自の文化は失われてしまったのだろうか。
写真やポスター、チラシなどの資料と当事者の証言で新宿の文化史を辿り直し、複数の論考によって新宿という街を検証する。そして磯崎新による幻の新都庁案で提示されていた祝祭広場の思想を手がかりに、祝祭都市新宿の未来像を構想したい。
30年30話 クリエイター30組の対話によるデザインの過去・現在・未来
日本で初めてのグラフィック・デザイン専門ギャラリーとして設立された「クリエイションギャラリーG8」。その創立30周年を記念して、2016年2月から翌月にかけて開催された「30年30話」展の公式図録。服部一成+菊地敦己、田中良治+千房けん輔(exonemo)など、ギャラリーと関係の深い30組のクリエイターたちクリエイターたちによるトークイベントが会期中に行なわれ、本書はその30組すべての模様が掲載。
2016/08/14(artscape編集部)
須田一政『SUDDENLY』
発行所:Place M
発行日:2016年5月16日
須田一政は2015年に敗血症を患っていた。化膿連鎖球菌に侵され、炎症の程度を示すCRP値は最高40に達した(基準値は0.3以下)という。その「いつ心臓が停止しても不思議ではない状態」から帰還したあとに、体調回復のために入院していた病院の病室で、繰り返し写真を見直し、「選び抜いた」近作を集成したのが本書である。
まさに「生死の境」に去来し、うごめきつつ姿を変えていくようなイメージ群が、写真集のページから溢れ出すように並んでいる。このところの須田の仕事ぶりには鬼気迫るものがあるが、この写真集でもそのただならぬ凄みに、絶句してしまうような写真が目白押しだった。特に目につくのは、液晶テレビの画面を写している写真である。須田は洋画が好きなようで、それらの一場面が断片的な映像として写しとられている。ほかにも、看板やポスターの一部を切り取った写真も多い。須田は写真集のあとがきで、スタンリー・キューブリックの「妄想や実現しなかった夢を現実と同じくらい重要なものとして扱おうとした」という言葉を引用している。このような、映像(まさに「妄想や実現しなかった夢」)を現実と等価のものとして扱う姿勢は、初期の頃からあったのだが、それがより研ぎ澄まされ、融通無碍なものになりつつある。
同年齢の(76歳)の荒木経惟もそうなのだが、須田の近作を見ていると、老いをネガティブにとらえるのではなく、むしろ何かを呼び覚ましていく契機としてとらえ直していこうとしているように見える。幽冥の世界を自由に行き来する表現が、輪郭をとりつつある。
2016/08/10(飯沢耕太郎)
五十嵐太郎、菊地尊也、東北大学五十嵐太郎研究室編著『図面でひもとく名建築』
会期:2016/08/06
『図面でひもとく名建築』の打ち上げを行なう。企画の開始から約1年で完成したので、これまでに五十嵐研で取り組んだ書籍に比べても、かなり早いペースだった。表紙を描いてもらったケンチクイラストレーターの野口理沙子さん、一瀬健人さんも参加する。果たして、そんなニッチな職業が成立するのだろうかと思っていたら、彼らは設計事務所に勤務しつつ、イラスト業も展開しているという。
http://noguchi-risako.com
2016/08/06(土)(五十嵐太郎)
プレビュー:あいちトリエンナーレ2016 虹のキャラヴァンサライ
会期:2016/08/11~2016/10/23
愛知芸術センター、名古屋市美術館、名古屋市内のまちなか、豊橋市内のまちなか、岡崎市内のまちなか[愛知県]
3年に1度、愛知県で開催される現代アートの祭典。3回目の今回は芸術監督に港千尋を迎え、「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」をテーマに、国内外100組以上のアーティストによる国際展、映像プログラム、パフォーミングアーツなどが繰り広げられる。またプロデュースオペラ「魔笛」の公演も行なわれる。テーマの詳細は公式サイトで調べてもらうとして、今回の大きな特徴は、豊橋市が会場に加わりますます規模が拡大したこと、キュレーターにブラジル拠点のダニエラ・カストロとトルコ拠点のゼイネップ・オズらを招聘し、参加アーティストの出身国・地域が増えたことなど、拡大と多様化を推し進めたことが挙げられる。この巨大プロジェクトを、港を中心としたチームがどのようにハンドリングしていくかに注目したい。個人的には、豊橋市が会場に加わることを歓迎しつつ、酷暑の時期に取材量が増えることにビビっているというのが正直なところ。前回は1泊2日で名古屋市と岡崎市を巡ったが、今回は1日1市ずつ3回に分けて取材しようかなと思っている。
2016/07/20(水)(小吹隆文)
カタログ&ブックス|2016年07月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
循環する世界──山城知佳子の芸術
2014年11月1日に札幌で行なわれた山城知佳子の上映会、トークイヴェントの記録を目的として出版された。地元沖縄を拠点に映像作品を制作する山城の10年間にわたる活動を振り返り、トークイヴェントで語られた作家自身の作品解説のほか、浅沼敬子、髙橋瑞木、鈴木勝雄によるエッセイを収録。
U-35 展覧会 オペレーションブック:展覧会開催記念限定本
2016年10月に大阪・うめきたシップホールで開催される「Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家7組による建築の展覧会2016」のカタログ。展覧会のメインとなる、公募によって選ばれた7組の若手建築家の出展情報・インタビューのほか、伊東豊雄・藤本荘介両氏の特別インタビューを収録。
ムンタダス展:アジアン・プロトコル
2016年3月から翌月にかけてアーツ千代田 3331で開催された「ムンタダス展 アジアン・プロトコル〜日本・中国・韓国の類似点、相違点、そして緊張〜」のカタログ。メディア・アートのパイオニアのひとりとして国際的に活躍するアントニ・ムンタダス、その彼の日本での20年ぶりの個展となった展覧会のインスタレーション・ビューをはじめ、1997年に行なわれたアーティストへのインタビューや、四方幸子、吉見俊哉、ジャック・スリユらのテキストを収録。
人工地獄──現代アートと観客の政治学
今日のアートにおいては、「参加」──すなわち社会的関与を重視したプラクティスが、非常に重要な位置を占めている。国内では芸術祭やアートプロジェクトが百花繚乱の様相を呈しているが、国際的にも社会的、政治的な側面を重視したプロジェクト型のアートがあらたな文脈を築きつつあり、その規模と影響力は、もはや現代アートのメインストリームを占めているといってよいだろう。特定の集団や地域と相互に歩み寄りながら行なわれるプロジェクトがある一方で、倫理を逸脱した(とみなされる)アートは、ときに衝突と論争を巻き起こしている。(…)
ビショップは、アートには社会から独立した役割があると確信するが、それはとりもなおさず芸術が倫理を重んじなくともよいという意味ではない。むしろ彼女は作者性と観客性、能動と受動、加害と被害──これらが本質として対立的にはとらえがたいものであることを強調し、複雑に転じていく位相をひもとくことで、より慎重かつ正確な理解を求めようとする。
「敵対」と「否定」に価値を見出しつつ、それらを多層的にとらえ直すビショップの鋭く豊かな思考は、「関係性の美学」以後のアートの構造を理解するうえで必ず踏まえるべきものといえるだろう。
現代建築家コンセプト・シリーズ22 島田陽|日常の設計の日常
72年生まれ、神戸を拠点にタトアーキテクツを主宰する島田陽が手掛けてきた住宅は、住む人やその周囲の人の認識を刺激し、新鮮な発見を促す多義性に満ちています。
シンプルな多様性、動的な抽象性、他律的な自律性、大きなディテール、新築の廃墟、家具の階段……。あれとこれがここで出会うと、豊かな変化をもった住居ができ、能動的で発見的な暮らしが営まれる契機となる。
本書は、島田の日記につづられたテキストや、海外クライアントからの声援もおりこみながら、ひとつの気づきが、別の場所にある小さな気づきと出会い、やがて住居設計のコンセプトが形をあらわす、島田の設計手法にせまります。バイリンガル。
2016/07/14(木)(artscape編集部)