artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
『[記録集]はな子のいる風景 イメージを(ひっ)くりかえす』
発行所:武蔵野市立吉祥寺美術館
無名の撮影者たちの写真群をあらためて再構築して読み解いていく、そのような「ヴァナキュラー写真」への関心の高まりを受けて、武蔵野市立吉祥寺美術館から素晴らしい写真集が刊行された。『[記録集]はな子のいる風景 イメージを(ひっ)くりかえす』は、写真というメディウムを、新たな方向に大きく開いていく可能性を秘めたプロジェクトといえるだろう。「はな子」はいうまでもなく、1949年にタイ王室から上野動物園に寄贈され、54年に井の頭自然文化園に移ったアジアゾウである。まだ敗戦の痛手が残る厳しい社会状況のなかで、多くの人々の心を和らげて人気者になった「はな子」は、その後69歳という異例な長寿を保って2016年に亡くなった。今回の企画は、市民が撮影した「はな子」とともに写っている169枚の写真と、その撮影当日に執筆された飼育日誌とをつなぎ合わせ、「
2017/10/08(日)(飯沢耕太郎)
粱丞佑『人』
発行所:ZEN FOTO GALLERY
発行日:2017/07/20
歌舞伎町を舞台にした写真集『新宿迷子』(ZEN FOTO GALLERY、2016)で第36回土門拳賞を受賞した韓国出身の粱丞佑(ヤン・スンウー)の「受賞第一作」の新刊写真集である。とはいえ、この『人』のシリーズは2002年から撮り続けられているものなので、本来は『新宿迷子』の前に刊行されるべきだったかもしれない。
写真の舞台になっているのは「横浜中華街から10分ほど歩いた所」にある横浜市寿町。いうまでもなく、東京の山谷や大阪の釜ヶ崎と並び称される「ドヤ街」である。これまでも、何人かの写真家たちがこの街を撮影してきたのだが、粱の撮影の姿勢は根本的に違っているのではないかと思う。彼は寿町を訪れて「撮りたいと強く思い」、街に通い詰めるようになるのだが、しばらくは「ただ見ていた」のだという。道に座り込んで住人たちと酒を酌み交わし、少しずつ顔なじみになると、やっと3カ月後にひとりの男が「お前は何をやっている人間なんだ」と聞いてきた。粱は「写真しています」と答え、そこからようやく撮影が始まった。
このような撮り方、撮られ方で成立した写真が、普通の「ドキュメンタリー」や「フォト・ジャーナリズム」の範疇におさまるものになるわけがない。そこから見えてくるのは、人と人というよりは、むしろ動物同士が匂いを嗅ぎ合い、互いに触れあい、ときには牙を剥き出しにして噛み合っているような関係のあり方である。モノクロームのスナップ写真は、むしろ古典的といえそうな風格を備えているが、そこには時代や国を超越した「どこでもない場所」の感触が見事に捉えられている。だが2017年現在、寿町も少しずつ「以前の姿は消え、高齢化が進み、街の『境界』は曖昧になり他の街となじみつつある」のだという。いまやこれらの写真は、失われつつある記憶のデータベースとしての意味も持ち始めているということだろう。
2017/09/27(水)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス|2017年9月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
芸術公社アニュアル 2016-2017
芸術公社の立ち上げから丸2年。2016年4月から2017年3月末までの1年間、芸術公社が日本、アジア各地で行なった作品創作、ワークショップ、教育プログラム、リサーチなど多岐にわたる活動を総括した報告書。
*芸術公社ウェブサイトよりPDF版を無料でダウンロード可サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで
ASEAN(東南アジア諸国連合)設立50周年を記念して国立新美術館、森美術館、国際交流基金アジアセンターが共同主催する国内過去最大規模の東南アジア現代美術展の展覧会図録。
都市は人なり──「Sukurappu ando Birudoプロジェクト」全記録
本書は、歌舞伎町の取り壊し直前の振興組合ビルで行われた展覧会+イベント「また明日も観てくれるかな?」から、高円寺のキタコレビルの地下に歌舞伎町のビルの瓦礫を埋め、建築家・周防貴之との協働により、そのうえに道(公共圏)を通すまでの一連の活動「Sukurappu ando Birudoプロジェクト」の全記録である。都市を舞台に活動してきたChim↑Pomが、その活動によって都市の姿を更新していく過程を、膨大な記録写真と関係者の証言で克明に写し取る。しかしこのプロジェクトは本書で完結していない。その最終形は、東京の再開発にゆだねられているのである。
建築学生ワークショップ比叡山 2017
全国の大学生を中心とした、地域滞在型建築ワークショップの全記録。2017年度の開催地は、比叡山。全国から集まった50名の大学生が、国内外で活躍中の講師の指導のもと、ちいさな建築作品を具現化させる。各作品のコンセプトから総評までを、豊富な図版とともに収録したドキュメントブック。
「Robert Frank: Books and Films, 1947-2017」展カタログ
9月22日(金)までデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)で開催中の同展のカタログ。開催各地で発行されている新聞形式のカタログの翻訳版も好評を得ている。
ヴァナキュラー・モダニズムとしての映像文化
写真やジオラマ、映画、テレビなどといった複製技術による映像文化が切り開く「自由な活動の空間」の可能性を、高踏的なモダニズムではなく、ヴァナキュラー・モダニズム──日常生活の身体感覚に根差した──の視点から探究する、横断的映像文化論の試み。
織物以前 タパとフェルト
本書では、貴重な古写真から原初の布の風景を巻頭グラビアに、タパ研究の第一人者、福本繁樹氏による南太平洋のタパ紀行と東西アジアでフィールド調査を行った長野五郎氏によるフェルト紀行を図版展開。布の技術の広がりや機への発展なども考察しながら、装飾や衣文化の原点に立ち返る。
2017/09/14(木)(artscape編集部)
カタログ&ブックス|2017年8月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
MA VIE A PARIS「私のパリ生活」
イヴァン・ペリコリ氏とブノワ・アスティエ・ド・ヴィラット氏が、パリのお薦めの場所を紹介するガイドブックです。鍼灸師や水道管工事、歯医者といった日常生活に役立つ実用的な場所から、レストランやカフェ、ホテルといった観光客も知りたい場所まで、300箇所以上が収められています。アスティエ・ド・ヴィラット独自のセンスで切り取ったパリの日常が垣間見える内容となっています。 背表紙部分以外の本の裁断面全てに金箔が施された“三方金”仕様となっており、フランス語原書同様の活版工法にて印刷されています。 アスティエ・ド・ヴィラットは日本でも人気の高い陶器ブランドで、両氏が1996年に創業しました。2015年にパリ唯一の活版印刷工房を手に入れ、2016年1月に出版社「エディション アスティエ・ド・ヴィラット」を設立しました。最初の出版物として、本書のフランス語版を活版印刷で発行いたしました。
音楽と建築
伝説の名著、ついに新訳で復活。高度な数学的知識を用いて論じられる音楽と建築のテクノロジカルな創造的関係性──コンピュータを用いた現代の表現、そのすべての始原がここに。
図鑑 デザイン全史
決定的図鑑─19世紀から21世紀まで、デザインの流れを一望する初めてのヴィジュアル大図鑑。編年的な構成―アーツ・アンド・クラフツ運動から、アール・ヌーヴォー、アール・デコ、モダニズム、ミッドセンチュリー・モダン、文化革命、ポストモダン、そして現在まで、時代や動向ごとにデザイナーと作品を紹介。ジャンルを網羅―グラフィック、タイポグラフィ、食品、ジュエリー、家具、照明器具、自動車、建築などなど、幅広いデザインのジャンルを豊富な作品写真で丁寧に解説。進化─自転車の進化、カメラの進化、電話機の進化、ギターの進化など、個別のジャンルの変遷が一目でわかる特設ページも多数収録。
洋裁文化と日本のファッション
ファッション史や大衆史からこぼれ落ちる洋裁文化の実態を、デザイナー、ミシン、洋裁学校、スタイルブック、ファッションショーなどの事例から立体的に描き出す。そして戦後の洋裁文化を、「民主化の実践」「消費社会の促進」という視点から再評価する。
フラッター・エコー 音の中に生きる
ブライアン・イーノらとともにアンビエント・ミュージックのシーンを作りあげ、ヒップホップ、テクノなどの発展にも貢献した、英国のミュージシャン/音楽評論家、デイヴィッド・トゥープが、自身のキャリア、自身の作品、音楽のパートナーについて振り返る、決定的な一冊。トゥープの広範囲にわたる活動記録の集大成であると同時に、英国における、現代音楽〜フリージャズ~テクノ/アンビエントの地下水脈を辿る年代記でもある。
ブックデザイナー鈴木一誌の生活と意見
生活者そして知識人としてのデザイナー12年間のクロニクル。
長年にわたりブックデザイナーとして活動し、デザイン、写真、映像についての批評でも知られる著者が、2005年から2016年までの12年間にわたって日常や社会の諸相に巡らせた思索の軌跡。『at』『atプラス』『市民の意見』『十勝毎日新聞』という三つの媒体に寄稿した連載エッセイと読書アンケートを中心に収録する。経済や情報のグローバル化を背景に、人々の価値観や公共性の枠組みが大きく変容していった時期に書かれたこれらのエッセイは、出版にかかわるデザイナーならではの同時代批評であり、デザインについて語らないデザイン論でもある。市場経済のデザイン言語から離れ、私たちの足下から立ち上がる思考の地平。
2017/07/31(月)(artscape編集部)
カタログ&ブックス|2017年7月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
Drawing Tube vol.01 Archive
2016年9月に“山形ビエンナーレ”にて行われた、ドローイングの領域を拡張し続けるアーティスト 鈴木ヒラクと、日本を代表する全身詩 人 吉増剛造のセッション、あるいは交信の記録。神宮巨樹による記録写真に加え、気鋭の書家 華雪によるテキスト「ことばがうまれる間 際」、サウンドスケープ研究者の髙橋憲人と鈴木ヒラクの電話対談をバイリンガルで収録。
ドローイングの実験室“Drawing Tube”による初の出版物。
建築の条件──「建築」なきあとの建築
建築はいつの時代も「建築家」と「クライアント」と「社会」の関係のうえに成り立ちますが、21世紀の建築は特に「社会」の比重が大きいと言われます。建築は社会がつくる。
建築は、応答せざるをえない他者からの直接的な要求だけではなく、間接的あるいは無意識的なレベルの条件に規定されていると坂牛は考え、現在に至る歴史を、人間に内在する問題系──「男女性」「視覚性」「主体性」「倫理性」──と、人間に外在する問題系──「消費性」「階級性」「グローバリゼーション」「アート」「ソーシャル」──から成る9つのテーマについて分析的に思考します。
また、社会的枠組み(ハビトゥス)をどのように「違反」して次の建築を生み出すか、建築家・坂本一成氏との対談も収録しています。
ISOTYPE[アイソタイプ]
事象と意味をつなぐ視覚化(=絵文字化)のシステム、ISOTYPE[アイソタイプ]。開発者であるオットー・ノイラートの多面的な活動とともに、あらゆる分野におけるビジュアル・コミュニケーションの発展に影響を与え、インフォグラフィックスのはしりとしてデザイン史に名を残すも、その志を著した出版物がこれまで邦訳されることはなかった。大戦の狭間、移民やナショナリズムを背景とし、国際化社会に向けた絵による教育・掲示の体系化と普及に勤しんだノイラート。彼が夢見た、国家を超える〈普遍的〉世界において、“個人のために”科学が、デザインが、果たすべき役割とは何であったのか。80年の時を経て、今なお問われているグローバリズムの課題、取り組まれているユニバーサルなコミュニケーションツールに通じる、その基礎的で壮大な取り組みに光を当てる。
All about Saul Leiter ソール・ライターのすべて
映画「急がない人生で見つけた13のこと」で話題を呼んだソール・ライター。我々日本人を引きつけてやまない、人生観、情緒的表現、浮世絵の影響を感じされる構図、色彩など、その深遠なる魅力の謎に迫る。初期のストリートフォトから広告写真、プライベートヌード、ペインティングなど約200点とともに、アトリエ写真、愛用品などの資料も収録。
T_ADS TEXTS 02 もがく建築家、理論を考える
ふたつの東京オリンピックのはざまで、時代の大きなうねりのなか形作られた現代日本建築の多様性を「理論」「技術」「都市」「人間」という四相から見直すシリーズの第1弾、「理論編」。日本を代表する建築家自身による作品解説とインタビューによる現代日本建築入門。
2017/07/14(金)(artscape編集部)