artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
カタログ&ブックス|2016年11月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
長坂常|常に思っていること
現在、都内のさまざまなショップ空間を手がけ、建築誌のみならずライフスタイル誌やカルチャー誌でも紹介されることの多い、長坂常率いるスキーマ建築計画。《Blue Bottle Coffee》や《TODAY'S SPECIAL》などのカフェやショップ、住宅やギャラリーのリノベーション作品、新築住宅や家具、展覧会会場構成など、さまざまなジャンルで設計を楽しみ、空間に求められるフォーマットや既成の空間のつくり方を軽々と更新しています。そして今後の海外での活躍に多くの人が注目しています。 本書では、7人の寄稿者(クライアントや協働者など)による「長坂常について思っていること」(寄稿、インタヴュー、往復書間)と、長坂が「常に思っていること」を、それぞれの作品や体験をめぐって掛け合わせ、構成することで、建築家・長坂常と長坂の建築に対する思いを立体的にみていきます。 作品のあり方と同様、本書でもいろいろな人や物事の声を聞いてさまざまな考えをめぐらせる長坂が、これからどのような作品をつくっていくのか。そんな未来の想像も楽しくなる一冊です。
みちのくアート巡礼キャンプ2016 レポートブック
東北を知る、巡る。東北から問いを立てる。それを自分の表現や企画へと発展させる──。
「みちのくアート巡礼キャンプ」は、これら3つを主眼とした、東北で今後なんらかの活動を志すアーティストや企画者を対象とした1カ月間の集中ワークショップ。「合宿ワークショップでの講師からのレクチャーや各参加者の最終プランや講評などがまとまっている他、参加者のワークショップを振り返ったテキストも掲載しています。」(ウェブサイトより)
なお、本レポートブックは「みちのくアート巡礼キャンプ2016」のウェブサイトからPDFを閲覧・ダウンロードすることができる。
写真をアートにした男 石原悦郎とツァイト・フォト・サロン
本書は、1978年に日本で最初に誕生した写真のコマーシャル・ギャラリーであるツァイト・フォトの創始者、石原悦郎の生涯を追うことで、日本写真史を立体的に描く試みである。石原が写真画廊を始めた頃は写真が未だ雑誌の為の印刷原稿の域にとどまり、オリジナル・プリントに対して、芸術的な価値はまったく認められていなかった。彼はいかにして、今日のように写真家がアーティストとして活動し、写真が芸術作品として社会に認められるような状況を作り出したのであろうか。そのことは表舞台にいる写真家だけを見ていては知り得ないことである。石原がフランスで世界的巨匠であるアンリ・カルティエ=ブレッソンやブラッサイらと交流し、その経験を国内作家にも伝えながら、独自に「アートとしての写真」を広めようとした活動は、結果的に植田正治を世界に発信し、荒木経惟、森山大道といった世界的写真家の輩出という大きな果実をもたらす。写真がアートになるために必要なことを総合的にプロデュースした、いわば日本写真史の影の立役者が石原悦郎という人物なのである。石原の眼を追体験できる本書は、日本写真史への理解を深める一冊となる。
TURNフェス ドキュメントブック 2015
東京2020オリンピック/パラリンピックの文化プログラムを先導するモデル事業「TURN」(リーディングプロジェクト)の一環である「TURNフェス」は、異なる背景や習慣をもつ一人ひとりが出会うことを楽しみ、深め、共有するフェスティバル。いろいろな人の日常とアーティストの交流から生まれた作品を追体験するエキシビションや、多彩なゲストを招いたカンファレンスを実施。本書ではエキシビションの様子や、対談などを収録。
青森EARTH2016 根と路
2016年7月から9月にかけて青森県立美術館で開催された「青森EARTH2016 根と路」の公式カタログ。縄文に創造の原点をたずね、青森の大地に根ざした新たなアートを探求する企画。その集大成となる今年は「人は大地に『根』を張り生き、旅という『路』を行く」というコンセプトのもと、「根と路」と題して開催された。文化人類学者の今福龍太氏による群島世界、民族、宇宙等をテーマにした新作掌編8編のほか、美学者、唄邦弘氏による「洞窟とイメージ」についての小論を収録している。
KIITOドキュメントブック 2015
デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)の年間の活動を紹介するアニュアルブック。「ちびっこうべ」「セルフ・ビルド・ワークショップ」「神戸『食』プロジェクト」など、2015年度にKIITOで催されたプロジェクトを総覧する。なお、本書はウェブサイトから閲覧・ダウンロードすることができる。
未知の表現を求めて─吉原治良の挑戦
20世紀の前衛美術を代表する画家・吉原治良(1905-1972)の生涯を、第一級の吉原コレクションを誇る芦屋市立美術博物館と大阪新美術館建設準備室の所蔵作品から厳選した約90点をもとにたどる「未知の表現を求めて―吉原治良の挑戦」展公式カタログ。豊富な図版と吉原治良のさまざまな活動を紹介するコラムを収録。
2016/11/01(火)(artscape編集部)
日本人と洋服の150年
会期:2016/10/06~2016/11/30
文化学園服飾博物館[東京都]
筆者の周囲では日常的に和服を着ている人を見ることは稀で、ほとんどの人たちは洋服で日々を過ごしている。しかしながら日本における洋装の歴史はせいぜい150年。明治維新以前(あるいはそれ以降も長く)着物を着てきた日本人が、どのように西洋の衣服を受け入れていったのか。この展覧会は150年にわたる日本人の洋装の歴史をたどる企画だ。とはいうものの、近年の歴史研究においては明治維新をそれ以前の文化からの断絶と見るのではなく、江戸期から明治期の連続性に着目するものが多い。本展も中心となっているのは明治・大正・昭和の洋服なのだが、序章においてポルトガル人漂着以降の唐物、南蛮物、紅毛物と呼ばれた文物が紹介されており、じつはその展示がとても興味深い。海外からもたらされた代表的な商品は更紗(木綿布)、羅紗(羊毛布)といった織物で、それらは服の一部に取り入れられたり、袋物に仕立てられたり、裂帖に貼り込まれて鑑賞されてきた。「縞」は「島」「島渡り」「島物」に由来する舶来の文様であった。日本の文化に溶けこんだ外来の衣服もある。「合羽」はポルトガル語のcapa(英語のcape)、「襦袢」は同じくgibão、袴に似た仕事着の「軽衫(カルサン)」はcalãoに漢字を当てたものだ。すなわち開国以前から日本人は西洋の衣装を模倣し、生活に取り入れてきたのである。また一方で、明治になってすべての人々の間で急速に洋装化が進んだわけではないことも示されている。官吏、軍人、鉄道員、郵便配達夫など、社会インフラに従事する人々の制服にはいち早く洋装が取り入れられ、大正期には都会で働く男性のほとんどが洋装であったが、そうした人々も自宅では着物で過ごすことが多かった。女性の洋装化はさらに遅かった。展示解説によれば、今和次郎の街頭調査では、昭和初めの東京の女性の洋装化率は2%、昭和12年には25%。戦後においても着物の女性は多く、地方においてそれはさらに顕著だったという。ただし変化がなかったわけではない。カフェの女給は和服に洋式のエプロンをつけ、街を行く女性はレースの日傘を差し、袴姿の女学生はタイツとブーツを履くなど、洋装はしばしば部分的に取り入れられ、ハイブリッドなファッションをつくっていったのだ。
時代の中で変わるものと変わらないもの、あるいは変化の速度という点で、実物資料と同様、あるいはそれ以上に興味深く感じるのは「洋服」という言葉それ自体だ。和服が日常着であった時代にそれと区別する意味で用いられた言葉が、洋装が日常着になり、かつての日常着が「和服」と呼ばれて日常着と区別されるようになったにも関わらず、いまだに「洋服」と呼ばれているのはなぜなのか。「洋服」という言葉には西洋式の服という以上の意味が含まれているのか。「洋服」の歴史には、衣服に対する日本人のアイデンティティと舶来の文化への眼差しを見ることができるのかもしれない。[新川徳彦]
2016/10/20(木)(SYNK)
カタログ&ブックス│2016年10月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
小さなリズム:人類学者による「隈研吾」論
隈研吾の建築が生み出されるプロセスに、独創的・挑戦的な思想を感じ取ったフランス人の人類学者と日本人の写真家が、隈事務所の日常をつぶさに観察することによって描き出した型破りな「隈研吾」論。
夢みる人のクロスロード 芸術と記憶の場所
「あいちトリエンナーレ2016」公式コンセプトブック。いま・ここでアートを考える新しい視角を提示する。池澤夏樹、岡谷公二、関口涼子、今福龍太、ジョルジョ・アガンベン、ジョルジュ・ディディ=ユベルマンなど総勢18名の豪華執筆陣による越境の夢。
建築学生ワークショップ明日香村 2016
全国の大学生を中心とした、地域滞在型建築ワークショップの全記録。2016年度の開催地は、奈良県明日香村・キトラ古墳周辺地区。全国から集まった約50名の大学生が、国内外で活躍中の講師の指導のもと、ちいさな建築作品を具現化させる。各作品のコンセプトから総評までを、豊富な図版とともに収録。
村上隆のスーパーフラット・コレクション
横浜美術館にて開催された「村上隆のスーパーフラット・コレクション」展(2016)のカタログ。現代美術から陶芸、骨董に至るまで、展示された約1300点の村上隆氏のコレクション全作品、全作家の紹介のほか、デイヴィッド・ウォルシュ氏や広瀬一郎氏との対談を掲載。各分野の用語解説や詳細な年譜も収録。
2016/10/03(月)(artscape編集部)
秦雅則『鏡と心中』
発行所:一ツ目
発行日:2016/08/09
2008年にキヤノン写真新世紀でグランプリを受賞し、2009~11年に東京・四谷で「企画ギャラリー・明るい部屋」を運営していた頃の秦雅則は、次々に溢れ出していく構想を形にしていく、すこぶる生産的な活動を展開していた。このところ、やや動きが鈍っているのではないかと思っていたら、いきなりハードカバーの写真集が刊行された。これまで、ZINEに類する小冊子はつくっていたが、本格的な写真集としては本書が最初のものになる。
ただ、『鏡と心中』というタイトルの本は、すでに2012年のartdishでの個展「人間にはつかえない言葉」に際して刊行されている。そのときには、写真は口絵ページに12枚ほどおさめられていただけで、「夢日記」のような体裁の文章ページが大部分だった。今回は、いわば写真集判の『鏡と心中』であり、写真図版は72枚という大冊に仕上がっていた。
写っているのは身近な片隅の風景であり、花や植物、小動物、杭や土管などを、しっかりと凝視して、スクエアの画面におさめている。かつての性的なイメージを再構築した破天荒なコラージュ作品とはかなり趣が違う。むしろ静まりかえったスタティックな印象を与える写真群だが、画像の一部に黒々と腐食したような空白が顔を覗かせている写真が目につく。おそらく、フィルムを放置することで生じた傷や染みだろう。それらが現実の風景を、風化していく記憶や、忘れかけた夢に似た感触に変質させている。丁寧につくられたいい写真集だが、秦にはもっと「暴れて」ほしいという気持ちも抑えきれない。次作は真逆の、ノイズや企みが満載の写真集を出してほしいものだ。
2016/09/27(火)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス│2016年9月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
ポンピドゥー・センター傑作展─ピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで─
東京都美術館での展覧会「ポンピドゥー・センター傑作展」の公式カタログ。パリのポンピドゥー・センターの作品のなかから、展覧会と同様に1906〜1977年の1年ごとに、ひとりの作家のひとつの作品を掲載。合計71作品でフランスの20世紀美術をタイムラインでたどりることができます。作家のポートレートと作家自身の言葉を見開きページで紹介し、個性豊かな巨匠たちの創造性が堪能できる構成となっています。
WASHI 紙のみぞ知る用と美
お椀も箪笥も着物も、みんな和紙でできていた!? 明治に入るまで和紙は、農閑期に庶民が漉く手軽な素材であり、様々に代用可能な優れた生活用材だった。漉き方や産地によって特長のある和紙に、揉む・張る・撚る・編むなどの多様な加工を加え、工芸品のような暮らしを彩る道具が作られてきた。
本書では、木、布、皮などに擬態した変幻自在な紙製品、約70点を「衣」「食」「住」「遊」の生活場面からカラー図版で紹介。和紙文化が栄えた江戸時代から昭和初期にかけ丹精を込めて生み出された逸品を披露する。巻頭では繊維の不思議を解き明かし、巻末で未来に繋がる和紙の素材力と魅力を語る。さまざまな造形を生んだ和紙の可能性をみつめた一冊。
どうぶつのことば──根源的暴力をこえて
昨年から今年にかけて神奈川県民ホールギャラリー、群馬県立美術館で個展「根源的暴力」を開催したアーティスト、鴻池朋子による、対話と書き下ろしを収録した書籍。2014年に日比谷で行われたシンポジウムの模様、鴻池と様々な分野の専門家との対話、鴻池自身による自然と人間の境界をめぐるエッセイから成る3章で構成され、個展に際して出版された作品集『根源的暴力』とは別の角度からアーティストを見つめることのできる一冊です。
建築家・坂本一成の世界
建築家・坂本一成の50年におよぶ仕事を網羅した作品集の決定版。
この作品集では、写真や図面などの豊富なヴィジュアル要素に加え、個々の建築に寄り添う細密な解説、そして様々な時代における坂本自身の言葉や他者の批評を断片として散りばめることで、坂本の建築の実像を浮かび上がらせようとしています。
坂本の建築は一つの視点の写真だけで表せるものではありません。
その建築のあらゆる部分は、他の部分、あるいは全体、さらには敷地を超えた世界と響きあうなかで成り立っています。
様々に異なる要素が多様な関係を持ちながら共存する、それこそが坂本一成の建築的世界だと言えるでしょう。
本書の構成は、そんな坂本の建築の在り方と呼応しています。
巻頭・巻末には、名作《House SA》《宇土市立網津小学校》の今の日常の姿をみずみずしく撮り下ろした写真を掲載。未完の作品も含む全作品歴、メディア掲載歴も完備した、坂本一成の建築を知るには必携の一冊です。
金子國義スタイルブック
2015年3月、画家・金子國義が逝去しました。この稀有な画家が残した名作の数々は、これからも時代を超えて愛され続けていくことでしょう。歌舞伎の舞台美術家のもとで修行し、日本の伝統芸能やその美意識を徹底的に学びながら、同時にヨーロッパの文化にも精通していた金子國義の作風は、唯一無二の魅力に溢れており、今後ますますグローバルな注目を集めるに違いありません。
金子作品の最大の魅力は、画家の存在そのものが作品世界に強く投影されていることです。「人生を謳歌しよう」「美しく生きよう」という姿勢に貫かれた哲学、いわば金子スクールの教えは、そのお弟子さんや私淑していたアーティストのなかで確実に引き継がれているのです。
本書では、金子國義がそうした人々に向けて実際に発した言葉やメッセージを、スタジオ・カネコ協力のもと、関係者への取材を通して集め、代表作とともに掲載します。その内容は、芸術に限ったものではありません。かつて日本の家庭でごく自然に教えられ、私たちが身につけていった「所作」「おもてなしの心」、そして「美しく生きるためのヒント」などが、金子國義ならではのセンスやユーモアに彩られた言葉として現れます。
國府理作品集 KOKUFUBOOK
國府理(こくふ・おさむ 1970-2014)は、乗り物の形態をモチーフに、実際に稼働させる動力と機能を備えた大型の立体作品を制作、発表。移動手段の実用枠を超えたユニークな乗り物を独自の設計思想と自らの手でつくり出し、機械・自然・人とが融合・対立・循環するメカニズムを考察し、それらを「もう一つの世界」として現実世界と相対させながら、人間と自然が共生していく「未来」を模索し続けた。本書は代表作約100点に、彼自身による「言葉」を添え、國府理の世界を一望する決定版作品集である。
2016/09/02(金)(artscape編集部)