artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
カタログ&ブックス|2016年02月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
シンギュラリティ──人工知能から超知能へ
イギリスの人工知能(AI)研究の第一人者によるAI入門書。本書では、「全脳エミュレーション」などの最先端のAI研究を手際よく解説し、さらにAIの政治・経済的インパクト、AIと意識の問題、そしてシンギュラリティ問題までを、さまざまな思考実験を通して考察する。はたしてシンギュラリティはやって来るのだろうか?
※ シンギュラリティ:人工知能が人間の知能を超える「特異点」のこと。[出版社サイトより]
ゴダール原論―映画・世界・ソニマージュ―
ゴダール渾身の3D長編『さらば、愛の言葉よ』に刺激され、再起動した批評時空間。その思考は過去の作品群へ飛び、芸術一般に拡張され、遂には世界認識をも揺さぶる。長編批評「ジャン=リュック・ゴダール、3、2、1、」のほか、監督独自の音響と映像の関係を論じた「彼のソニマージュ」、最後の言葉を探る「ONEn+」を収録。[出版社サイトより]
インフォグラフィックスの潮流 情報と図解の近代史
膨大なデータが行き交う現代において情報を視覚化して理解を促すインフォグラフィックはその重要性を増しつつあります。 本書はインフォグラフィックの歴史をマップ、統計、図解、関係、コードといった観点から探求し、インフォグラフィックを本質的に理解する視点を提示するとともに、今後の視覚情報のあり方を考える機会を提供します。図版資料も満載。[出版社サイトより]
ここに棲む──地域社会へのまなざし
2015年10月〜2016年1月、アーツ前橋で開催の企画展「ここに棲む──地域社会へのまなざし」のカタログ。家族や地域のあり方が大きな変換を迎えているいま、人々は物質的・経済的豊かさとは異なる価値観に目を向け始めている。14組の建築家とアーティストがこうした社会の変化を見つめ直し、作品を通して地域と私たちの結びつきについて考える。[出版社サイトより]
平成27年度[第19回]文化庁メディア芸術祭カタログ
文化庁メディア芸術祭公式カタログでは、87の国と地域から総数4,417作品の応募のうち、32の受賞作品と審査委員会推薦作品を掲載。また、4名の功労賞受賞者の紹介や、審査員による講評と鼎談などを収録。
2016/02/15(月)(artscape編集部)
阿部淳『1981』(上・下)
発行所:VACUUME PRESS
発行日:2015/12/31
阿部淳、野口靖子、山田省吾が共同運営する大阪の出版社、VACUUME PRESSから刊行されてきた阿部淳の写真集も、これで8冊目と9冊目になる。今回は阿部が大阪写真専門学校(現ビジュアルアーツ専門学校・大阪)を卒業した年である1981年に撮影した写真群を、2冊組の写真集にまとめて刊行した。
阿部は専門学校在学中から現在に至る路上のスナップ写真を撮影し続けているのだが、そのあり方がこの時期からほとんど変わっていないことを、あらためて確認できた。被写体になっているのは大阪の街の雑然としたたたずまいと、そこを行き交う人物たち、そこここに溢れ出し、増殖するモノの群れなのだが、阿部が鋭敏に反応しているのは、むしろそれらのあいだに漂う不穏な気配なのではないかと思う。建物やヒト(ゴーストのようだ)やモノは、固定した意味づけから遊離して、何か訳のわからない異物と化し、光と闇のあわいを漂いはじめる。川田喜久治の路上の写真にも同じような感触があるが、阿部のほうがより重力を脱した浮遊性が強いのではないかと思う。
阿部はこのところ、『2001』(2013)、『プサン』(2014)と、過去に撮影した写真群を再プリントして写真集として刊行し続けている。撮影時から時間を経て、写真を見る目が変化し、あらためて新たな気づきがあるという意味で面白い試みだと思う。ただ、そろそろ新作が出てきてもいい時期ではないだろうか。旧作と新作を対比させて提示するというのも面白いかもしれない。
2016/01/26(火)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス│2016年1月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
デザインの種
眼と手の感覚、紙が連れてくる風景、かたちへの意識、色に潜む政治性などめぐって浮かび上がる、デザインの過去・現在・未来。たがいの批評精神が触発しあい、15年にわたって持続した対話の集成。[出版社サイトより]
現代建築家コンセプト・シリーズ21 小嶋一浩+赤松佳珠子/CAt | 背後にあるもの 先にあるもの
小嶋一浩と赤松佳珠子(CAt)がこの10年の間に手がけてきた建築作品の考え方を12のキーワードに分解し、その「背後にあるもの 先にあるもの」を浮かび上がらせていきます。バイリンガル。[出版社サイトより]
世界のかわいいきのこデザイン
印刷物にみるキュートなきのこワールド! レトロな松茸狩り案内書から椎茸弁当の包み紙、切手、レターセットやポストカード、紙ナプキン…… きのこの見方がちょっと変わる!? 世界中で愛されている、ペーパー・マッシュルーム コレクション![出版社サイトより]
現代アートの本当の楽しみ方 表現の可能性を見つけにいこう
現代アートに関わる人々が、これから現代アートを学びたいと考えている方にもわかるようにやさしく、丁寧に答えていきます。しりあがり寿×日比野克彦、遠藤水城×五野井郁夫の対談を収録![出版社サイトより]
物を作って生きるには
本書は、物を作ることによって生活を立てているMakerによるエッセイおよびインタビュー集です。登場するMakerが作る物は、エレクトロニクスキット、家具、玩具、さらにハッカーのための共有スペースまで幅広く、その目的や規模もさまざまです。しかし、共通しているのは、自分に一番適したやり方を自分の頭で考え抜き、そのアイデアを実際に手を動かして実現していること。[出版社サイトより]
被爆70周年 ヒロシマを見つめる三部作 第3部 ふぞろいなハーモニー
2016年3月6日まで、広島市現代美術館で開催中の同展のカタログ。4人のキュレータの論考と作品解説を掲載。
写真の映像 写真をめぐる隠喩のアルバム
世界言語としての写真という記号をめぐる事典――黎明期からデジタルメディア時代まで、アルファベット順に55項目のキーワードで写真作品(ニエプス〜アーバス)を読み解く。数々の写真論(ベンヤミン〜クレーリー)の引証を交えつつ、〈映像=表象〉をめぐる隠喩の星座がもつ写真史的布置を浮かび上がらせる、光と影のアルバム。【芸術論叢書】第3回配本。[出版社サイトより]
薬草の博物誌―森野旧薬園と江戸の植物図譜―
本書は、この江戸時代に遡り、人々の薬草、植物に寄せる探究心や愛着を、それぞれ精緻な観察眼で描かれた様々な植物図譜と、江戸における植物相が今もそのまま残る日本最古の私設薬草園、森野旧薬園(奈良県宇陀市)とその創設者、森野賽郭が描いた1003種を収める「松山本草」をとおして色鮮やかに表現しようとするものである。[出版社サイトより]
『安楽島』、『休日映画 2009 - 2014』
2005年創設の映像レーベルSOL CHORDから発行されているDVDシリーズの第9、10弾。『安楽島』は崩壊した家族に他人が入ることで、関係を回復していく物語をシネマ・ヴェリテの手法で撮った作品。『休日映画』は2009年から2014年まで、休日に撮影した作家の家族の記録をその時々のマスメディアの報道を挿入しながら編集し、ネット上で公開してきた作品。
2016/01/14(artscape編集部)
カタログ&ブックス│2015年12月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
コンピュータ・アートの創生 CTGの軌跡と思想 1966 - 1969
日本が生んだ第1世代のコンピュータ・アート集団で国際的にも有名なCTG(Computer Technique Group)の初の本格的研究。CTGとその時代を一次資料で詳細に検証し、オリジナルプログラムの失われたCTG作品を今日のプログラミング言語で再現。コンピュータ&メディア・アート史研究の必須文献。[出版社サイトより]
みなでつくる方法─吉阪隆正+U研究室の建築
2015年12月3日〜2016年3月13日まで、国立近現代建築資料館で開催中の展覧会カタログ。展示資料の図版、写真、寄稿、その他の資料を掲載。
スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。—未来を思索するためにデザインができること
本書は、「問い」を生み出し、未来のシナリオをデザインすることで、今ある世界に別の可能性を提示する「スペキュラティヴ・デザイン」について紹介した初の日本語版書籍です。ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)のデザイン・インタラクティブ学科で10年にわたって教鞭を執り、「スペキュラティヴ・デザイン」の提唱者として世界的に注目を集めている著者が、アート・小説・イラスト・写真・映画などあらゆる領域を引証しながら、未来をスペキュレート〈思索〉する視点について紹介します。[出版社サイトより]
内藤礼|1985-2015 祝福
美術家・内藤礼の30年にわたる仕事を包括する初の作品集。 最初の個展《Apocalypse Palace》から、大きな話題を呼び初期の代表作となった《地上にひとつの場所を》、昨年の《信の感情》など、国内外で発表された作品を中心に、パーマネント作品《母型》(豊島美術館)や《このことを》(家プロジェクト「きんざ」)、主要なドローイング、絵画作品、テキストを収録。[出版社サイトより]
杉本博司 今昔三部作
2015年10月28日〜12月23日まで、千葉市美術館開館20周年記念展として開催されている「趣味と芸術 - 味占郷/今昔三部作」のカタログ。展示作品の《ジオラマ》(1975〜)、《劇場》(1975〜)、《海景》(1980〜)から16点を掲載。
都市論ブックガイド とりあえず75冊
南後(明治大学情報コミュニケーション学部)が選書した都市論・社会学を中心とした必読文献に、ゼミ生の研究テーマに関する必読文献を加えた計192冊の選書リストの中から、「とりあえず75冊」の書評を書いたブックガイドである。[本書より]
Traveling Research Laboratory 2015
2014年から始められた同タイトルのアートプロジェクトの記録集。12日間6人のメンバーが旅をしながら車内を録音スタジオに見立て、ポッドキャスト番組を録音、編集し、旅先から配信した。本書は6回分の音声データとエッセイなど旅の記録で構成されるCDとブックレット。
2015/12/15(木)(artscape編集部)
存本彌生『わたしの獣たち』
発行所:青幻舎
発行日:2015/11/25
ヒオス島(ギリシャ)、セビリア(スペイン)、神戸(日本)、ミュンヘン(ドイツ)、サンクトペテルブルク(ロシア)、シェトランド(スコットランド)、ゴーダ(オランダ)、コチコル(キルギス)……。在本彌生の写真集『わたしの獣たち』の写真の撮影場所を、掲載順に記すとこんな具合になる。彼女が旅の写真家であることは一目瞭然だろう。ジェット機の時代の写真家の中でも、在本の移動距離の大きさは突出している。そういえば、彼女の最初の写真集『MAGICAL TRANSIT DAYS』(アートビートパブリッシャーズ、2006)も旅と移動の産物だった。それから9年ぶりになる、この新作写真集を見ていると、在本の「世界に潜む美を探し求める」アンテナの精度が、より研ぎ澄まされてきているのを感じる。
とはいえ、その探索の旅は、けっして肩肘を張って狙いをつけるようなものではない。むしろ被写体の幅を大きくとり、目に飛び込むものを片端から撮影しているように見える。だがそれらの雑多なイメージの流れに身を委ねていると、何か柔らかく、大きな塊のようなものが浮かび上がっているように感じる。例えば、何度か登場する「馬」のイメージもそのひとつだろう。在本にとって、「馬」は好きな被写体という以上に、生命力そのものの在処をさし示す、神話的、根源的な生きものなのではないだろうか。「馬」だけではなく、彼女の写真には出会うべくして出会ったという確信がみなぎっているものが多い。こういう写真集のページを繰っていると、自分も旅に出たいという、ひりつくような渇望の思いに駆られてしまう。
2015/12/07(月)(飯沢耕太郎)