artscapeレビュー

パフォーマンスに関するレビュー/プレビュー

モンテヴェルディ生誕450年記念特別公演「聖母マリアの夕べの祈り」/タリス・スコラーズ 2017年東京公演

神奈川県立音楽堂、東京オペラシティ[神奈川県、東京都]

「聖母マリアの夕べの祈り」@神奈川県立音楽堂と、タリス・スコラーズ@オペラシティと古楽を聴く機会が続いたが、今年はちょうど生誕450年記念なので、いずれもモンテヴェルディを歌う。とりわけ、タリス・スコラーズによるアレグリのミゼレーレは、数名の歌い手がホールのあちこちに散らばり、ステージからの歌声と掛け合いを行ない、立体的な音空間をつくり出し、鳥肌モノの体験だった。クラシックの楽器が発展する以前、宗教の庇護のもと、声の力だけでこれだけの複雑さと美しさに到達したことに感心させられる。

2017/06/03(土)、2017/06/05(月)(五十嵐太郎)

オープンシアター2017

会期:2017/05/27

神奈川県立音楽堂[神奈川県]

神奈川県立音楽堂のオープンシアター2017へ。横浜国立大学の建築学科の学生らが館内を案内するほか、のちにいろいろと増築されたバックヤードも見学することができ、建築ファンを増やすよい機会になっている。親子や幼い子どもが多く集まったミニコンサートは、松田理奈によるヴァイオリンの独奏から始まり、曲ごとに横坂源のチェロ、加藤昌則のピアノが増えていく構成だった。それにしても、木のホールのせいか、弦楽器の響きのよいことに感心させられる。また、あちこちで子どもが泣き叫ぶなかで聴くクラシックの演奏もめずらしいというか、ある意味でシュールな体験だった。

2017/05/27(土)(五十嵐太郎)

どうぶつえん vol. 6

会期:2017/05/21

代々木公園[東京都]

ダンスを「舞台芸術」のひとつのジャンルとみなし、確固とした芸術的価値をそのなかに見たいというのならば話は別なのだが、ダンスは「舞台芸術」として劇場の枠に囲い込んでおかなければならないものではない。例えば、駅のコンコースやビルの空き地に場所を見つけて踊るストリートのダンサーたちは、ダンスの舞台はストリートにもあると思っているわけだ。ストリートを舞台と見立てた途端、ダンスは街中に侵入し、街のアレヤコレヤの物事と対立したり、融合したりして、劇場のスポットライトの前ですましているのとは別の相貌をあらわにすることだろう。しばしばストリートを稽古場にしてきたAokidが休日の代々木公園を上演の舞台にしたことは、そう捉えてみれば、自然なチョイスなのかもしれない。ここでは、カップルが、家族が、友人たちがシートの上で寝そべり、あちこちで沖縄の三線やら、ウクレレやら、サルサや合気道やヨガのレッスンが行なわれている。新緑のめざましい、乾いた風の吹く午後、すべての人がリラックスしている。Aokidと仲間たちは、原宿寄りの入場門から出発し、移動を繰り返しながら、ダンスやインスタレーションやパフォーマンスなどの出し物を披露していった。彼らの上演は一括りにしてしまえば、どれもゆるい。このゆるさは、しかし、目に飛び込んでくる、見せようとしていない出し物以外の人々の営みと、柔らかく重なることを可能にしている。キメキメに踊れば、周囲から際立つだろうが、それはこの場に劇場を拵えあげるだけだ。そう考えると、この試みは、人が自由に活動している公園とアーティストの上演活動とをつなぐチャレンジのように映る。とはいえ、このゆるさは、換言すれば、周囲の人々の営みへと観客の視線が遊んでしまうのを許す。自然の美しさも相まって、上演以外の見所となるコンテンツが、公園には無数にあり、どれを見たら良いのかわからなくなる。このことは、芸術を見ているはずが、気づくと自然の景観に魅了されているという、大地の芸術祭など北川フラム系の地域アートを鑑賞する際にしばしば起こる現象に似ている。では、代々木公園の勝ちかといえば、単純にそうではないはずで、上演を見るという目的もなく、ただ移動しているだけでは、代々木公園を鑑賞するという隙も生まれてこなかったろう。とはいえ、観客のなかで地と図の反転が頻繁に生じている環境であるということは、自覚しておいた方が良い。その意味では、代々木公園という空間そのものを鑑賞の対象として積極的に取り上げる出し物があったら面白かったのでは、と思った(しかし、三時間とされていた上演の最後の30分ほどを筆者は未見)。Aokidのほか、三木仙太郎(アート)、関川航平(アート)、鈴木健太(アクト、メディア) 、清水恵美(行為)、飯岡陸(キュレーター)、福留麻里(ダンス)、猫道(詩人、spoken words)が出演・演出した。

2017/05/21(日)(木村覚)

読売日本交響楽団 第568回定期演奏会

会期:2017/05/19

東京芸術劇場[東京都]

ロジェストヴェンスキーが指揮する超遅いテンポによるブルックナー交響曲第5番@芸術劇場。いまではあまり演奏されない、弟子が脚色した初演のシャルク版ゆえに、ただでさえ緩急の激しい曲が、笑っちゃうほどドラマティックになっている。ラストは最後尾の列にずっと座っていた金管隊がすくっと立ち上がり、沈黙を破って、大爆音のフィナーレだった。いつまでも鳴り止まない拍手を含めて、観客の反応が面白いライブである。

2017/05/19(金)(五十嵐太郎)

マリアの首 ─幻に長崎を想う曲─

会期:2017/05/10~2017/05/28

新国立劇場[東京都]

戦争の記憶がまだ残っている時期ゆえに、切実につくられた田中千禾夫の名作を小川絵梨子が演出し、鈴木杏らが出演した舞台である。原爆が投下された長崎において、それぞれの事情を背負い、生きていく女たち。とりわけ圧巻なのが、雪が降る夜、破壊された浦上天主堂に集まり、転げ落ちたマリアの首を保存しようと集まる、美しいラストシーンだった。

2017/05/17(水)(五十嵐太郎)