artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
ブルーノ・カンケ「2LDK」

会期:2010/10/12~2010/10/30
ビジュアルアーツギャラリー・東京[東京都]
ブルーノ・カンケは、1964年生まれの在日フランス人写真家。パリのルイ・ルミェール国立映画学校音響科を卒業後に来日し、東京ビジュアルアーツで学んだ。2年前の卒業制作作品「サラリーマン」は僕も審査したのだが、批評的な眼差しで日本社会を切れ味鋭く裁断した素晴らしい作品だった。
今回のビジュアルアーツギャラリー・東京での個展の出品作は、彼の東京の自宅の「2LDK」の部屋で撮影されている。部屋のあちこちに「曇りガラス」の中を覗き込むように撮影した写真を大きく引き伸ばして貼り付けてある。そのことによって、入れ子構造の空間が「プライベートスペースのコラージュ」として成立してくる。曇りガラス越しに見えているのは、食料品、花、雑多な家具、人物などで、その見えそうで見えない像が軽い苛立ちを誘うとともに、見る者を混乱させ、面白い視覚的な効果をあげている。さらに自宅のソファ、机、電気スタンドを実際に会場に持ち込むことで、その混乱がより増幅されていた。洗練された会場のインスタレーションには、アイディアを手際よく形にしていく彼の能力の高さがよくあらわれているが、作品そのものはやや小さくまとまってしまっているようにも感じた。日本の社会現象を異邦人の眼で見つめ直す、よりスケールの大きな作品を期待したい。「サラリーマン」シリーズの続編を考えてもよいのではないだろうか。
2010/10/26(火)(飯沢耕太郎)
’10倉敷フォトミュラル

会期:2010/10/22~2010/11/10
倉敷駅前アーケード[岡山県]
毎年10~11月にかけて、岡山県倉敷市の駅前商店街のアーケードに写真作品が展示される。写真の大きさは290×370cmと200×190cmの2種類。応募されてきた写真のデータを拡大して印刷した布プリントだ。まさに「フォトミュラル」=写真壁画というタイトルにふさわしい大きさで、なかなか迫力がある。
この「倉敷フォトミュラル」の企画は、2004年からスタートして既に7回目になる。最初の3回は「花」、次の3回は「景」というようなテーマで毎年全国から写真を公募し、僕が審査して57点に絞り込む。年々応募者数が増え、質も向上して充実した展示になってきた。最近は応募点数がコンスタントに800点を超えている。ただ今年から、目に見えない「風」がテーマなったことで、応募者には多少戸惑いがあったようだ。「風になびく草」「ひるがえる旗」などの、どちらかといえば紋切り型の解釈も目立っていた。だがおそらく来年になれば、もっと自由で多彩な表現がたくさん出てくるのではないだろうか。
商店街のアーケードを実際に歩いてみると、この企画が年中行事としてしっかりと街に根づいていることがわかる。自分の作品の前で記念写真を撮っている人もいるし、観光客も上を指さして通り過ぎていく。商店街の人たちも、毎年とても楽しみにしているようだ。4年前からは、高校生を対象にしてワークショップ(撮影会)を開催し、その優秀作を地元のデパート、天満屋倉敷店に展示する「PHOTO STADIUM」という企画も始まった。実際にこのプロジェクトを運営しているのは岡山県立大学デザイン科の学生さんたちなのだが、彼らの献身的な努力が盛り沢山の企画を支えていることは間違いない。地域密着型の写真企画のモデルケースとして、これから先もぜひ長く続いていってほしいものだ。一応、10年でひとつの区切りということのようだが、せっかくの盛り上がりを、そこで終わらせるのはもったいないと思うのだ。
2010/10/24(日)(飯沢耕太郎)
山内道雄『基隆』

発行所:グラフィカ編集室
発行日:2010年10月20日
今や希少種になりつつあるストリート・スナップ一筋の撮り手として、山内道雄はこれまで東京、上海、香港、カルカッタ、ワイキキなどの路上を彷徨してきた。2007年と2009年に撮影されたこの『基隆』のシリーズも当然その延長上にある。10月18日~31日にギャラリー蒼穹舎で同名の展覧会が開催されており、壁一面に全紙のプリントを張り巡らした展示もよかったのだが、ここでは写真集を取り上げることにしよう。これまでの山内の写真集と比較しても、出色の出来栄えと思えるからだ。
写真集のあとがきにあたる文章で、「今までは私の興味、好奇心は人へ直に集中していたが、基隆では少し引いて、街の中の人をみていたような感想が残った」と書いている。たしかに「むし暑く、車も多いので埃っぽい」都市の環境が、やや引き気味に写り込んでいる写真が多い。だがむろん、山内のトレードマークである「人」に肉迫する写真も健在であり、むしろこれまで以上に都市そのものが内在しているエネルギーが多面的、かつ立体的に捉えられているともいえる。もうひとつ、写真集はモノクロームの写真が中心なのだが、そこに実に効果的にカラー写真が挟み込まれている。モノクロームとカラーを混在させるのは、それほど簡単ではない。そこでくっきりと二つの世界が分離してしまうことになりがちだからだ。だが、このシリーズでは、カラー写真のプリントをやや白っぽく処理することによって、前後の写真と違和感なくつなげている。カラー写真のページがアクセントになることで、基隆という街の手触りがこれまた立体的に浮かび上がってくるのだ。
ストリート・スナップの醍醐味は、たしかに山内本人があとがきに当る文章で書いているように「ただ見ているだけで体がゾクゾクしてくる」ような歓びを味わわせてくれることだろう。彼の写真には、いつでも理屈抜きで手足が勝手に踊り出すようなビート感が備わっている。写真集を見終えて、山内と一緒に港町の起伏の多い路上をずっと歩き続けていたような、心地よい疲労感を覚えた。
2010/10/22(金)(飯沢耕太郎)
ファッション写真展 女神(ミューズ)たちの肖像 モードと女性美の軌跡

会期:2010/10/21~2011/01/10
神戸ファッション美術館[兵庫県]
同館所蔵の、19世紀後半から1990年代までのファッション写真約130点を、各時代のオートクチュールやプレタポルテ(これも所蔵品)とともに展覧。他の美術館では真似のできない、写真と実物をシンクロさせる手法で、非常に説得力のある展示となった。また、会場入口では、ベルナール・フォコンの写真と、彼の作品に登場するマネキン人形数十体を対面配置して観客を歓待するという、心躍る演出がなされていた。写真は、まさにファッション写真史を代表する名作揃い。しかもそのすべてが発表当時のプリントだというのだから恐れ入る。嬉しさと同時に「これだけのコレクションを持ちながら、なぜ今まで有効活用しなかったのか」と、軽い憤りも感じたりして。今後は本展のような工夫を凝らした企画をどんどんやってほしい。
2010/10/21(木)(小吹隆文)
岡上淑子「夜間訪問」

会期:2010/10/06~2010/10/31
LIBRAIRIE6[東京都]
岡上淑子(1928年~)は1953年、25歳で「岡上淑子コラージュ展」(タケミヤ画廊)を開催してデビューした。そのシュルレアリスムに強く影響された、センスのいい、繊細なフォト・コラージュ作品は、瀧口修造をはじめとする批評家たちに高く評価されて一躍注目を集めた。ところがわずか数年の活動期間を経て、その後ほとんど作品を発表しなくなる。それから40年余りが過ぎ、1990年代になって、この幻の作家の作品にふたたびスポットライトが当たってきた。展覧会が開催され、アメリカのNazreeli Pressからは作品集やポートフォリオが刊行されて、彼女の名前は国際的にも広く知られるようになったのだ。
今回の展示は、1950年代のオリジナル作品4点に、シルクスクリーンによる複製、Nazreeli Press版のポートフォリオからの抜粋を含むものだった。数は少ないが、岡上淑子のオリジナルを見る機会はほとんどないので、貴重な展覧会といえるだろう。その乙女の夢がそのまま凝固したような幻想世界は、いまでも充分に新鮮で魅力的だ。デジタル時代だからこそ、鋏と糊でつくられるコラージュという古風な表現手段の面白さも再発見できそうな気がする。なお会場のLIBRAIRIE6は、恵比寿駅の近くにできたギャラリーとアンティークの店。シュルレアリスム関係の書籍やオブジェなども販売しており、今後の活動が期待できそうだ。
2010/10/15(金)(飯沢耕太郎)


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