artscapeレビュー

ブルーノ・カンケ「2LDK」

2010年11月15日号

会期:2010/10/12~2010/10/30

ビジュアルアーツギャラリー・東京[東京都]

ブルーノ・カンケは、1964年生まれの在日フランス人写真家。パリのルイ・ルミェール国立映画学校音響科を卒業後に来日し、東京ビジュアルアーツで学んだ。2年前の卒業制作作品「サラリーマン」は僕も審査したのだが、批評的な眼差しで日本社会を切れ味鋭く裁断した素晴らしい作品だった。
今回のビジュアルアーツギャラリー・東京での個展の出品作は、彼の東京の自宅の「2LDK」の部屋で撮影されている。部屋のあちこちに「曇りガラス」の中を覗き込むように撮影した写真を大きく引き伸ばして貼り付けてある。そのことによって、入れ子構造の空間が「プライベートスペースのコラージュ」として成立してくる。曇りガラス越しに見えているのは、食料品、花、雑多な家具、人物などで、その見えそうで見えない像が軽い苛立ちを誘うとともに、見る者を混乱させ、面白い視覚的な効果をあげている。さらに自宅のソファ、机、電気スタンドを実際に会場に持ち込むことで、その混乱がより増幅されていた。洗練された会場のインスタレーションには、アイディアを手際よく形にしていく彼の能力の高さがよくあらわれているが、作品そのものはやや小さくまとまってしまっているようにも感じた。日本の社会現象を異邦人の眼で見つめ直す、よりスケールの大きな作品を期待したい。「サラリーマン」シリーズの続編を考えてもよいのではないだろうか。

2010/10/26(火)(飯沢耕太郎)

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