artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
第3回写真「1_WALL」

会期:2010/09/21~2010/10/14
GUARDIAN GARDEN[東京都]
かつての「ひとつぼ展」をリニューアルした公募展。2回にわたるポートフォリオの審査をくぐり抜けた6名の写真家がそれぞれ作品を展示したが、会期中に催された公開審査でその中からグランプリが決定した。画期的だったのは、会場にその公開審査の様子を記録した映像が発表されていたこと。審査員による厳しい質問や突っ込み、写真家による応答や主張などのやりとりが生々しい。注目したのは、いしかわみちこ。痴漢の被害者になってしまった自分を題材にして、警察の取調べを文字で再現しながら、当時の状況を再現する写真などを発表した。ストロボによって闇夜に浮かぶ身体の部位、ブルーシートの上に置かれた衣服などが、事件の恐怖を物語っているように見える。けれども同時に、そこには被写体となったモノをモノとして突き放したような視線も垣間見られたので、もしかしたら写真というモノによって事件というコトを相対化しようとしていたのかもしれない。こうした暗い写真が90年代以後のガーリーな写真の文字どおりネガであることはまちがいないし、審美的なフィルターを通すことなくあくまでも即物的に日常をとらえ直すことを考えれば、暗闇の中に夢幻的な光景を写し出す、たとえば高木こずえや志賀理江子など昨今の写真とも異なる、いしかわならではの写真であることがわかる。残念ながらグランプリは逃したが、いしかわの作品こそ新しい写真として評価したい。ただし、会場の壁面に家の扉を設けるなど、空間インスタレーションとして見せたかったようだが、空間に制約のあるグループ展という性格上、その効果は半減してしまっていた。機会を改めて、空間を存分に使い倒した展示を見てみたい。
2010/10/14(木)(福住廉)
吉川直哉 展

会期:2010/10/12~2010/10/31
ギャラリーアーティスロング[京都府]
ロバート・キャパ、ユージン・スミス、アンセル・アダムス、アンリ・カルティエ=ブレッソン、ニセフォール・ニエプスという、写真史上の巨匠の作品を、独自の解釈で複写した作品。巨匠たちがシャッターを押す瞬間の、視覚、意識、フレーミングを追体験しようとする試みだ。方法は複写だが、意識の上では模写に近いという。どの作品もストレートな複写ではなく、吉川の解釈や諧謔が込められた変則的な仕上がりになっており、ニエプスを題材にした作品に至ってはフォトアニメで仕上げられている。凝った仕掛けがそこかしこに散りばめられており、写真史をある程度把握している人なら、思わずほくそ笑んでしまうだろう。
2010/10/14(木)(小吹隆文)
ハービー山口「1970年、二十歳の憧憬」

会期:2010/09/24~2010/11/02
キヤノンギャラリーS[東京都]
ハービー山口のモノクロームのスナップショットは、見る人に安らぎと懐かしさの感情を呼び起こす。過度に苛立たしさをあおったり、ネガティブな気分に引っぱり込んだりすることなく、「これでいいのだ」という気持のよい安心感をを与えてくる。この窮屈で息苦しい時代において、彼の写真がきちんと一定数の読者や観客を獲得し、展覧会が開催され、写真集の出版が続いているのはそのためだろう。ハービー山口は「超」がつくような人気者になることはないだろう。だが目立たないところで実力を発揮し、写真の世界を底支えしているのは彼のようなタイプの写真家だと思う。
今回のキヤノンギャラリーSでの個展、及び求龍堂から刊行された同名の写真集は、その彼の原点とでもいうべき20歳前後、1969年~73年に撮影した写真を集成したものである。これらの写真もまた、ポジティブで安定感のある現在のスタイルと比較して、それほど大きな違いはない。むしろ最初から「写真によって生きる希望を探す」という姿勢が見事に一貫していることに驚かされる。憧れの女の子にカメラを向けても、学生のデモや返還前の沖縄を撮影しても、翳りや、歪みがほとんどといっていいほど感じられないのだ。
だが、本当にそうなのだろうかと、僕などは考えてしまう。写真をやや斜めから見続けてきた評論家の悪癖なのかもしれないが、どこかきれいごと過ぎる気もするのだ。青春時代につきまとうコンプレックスや、卑屈さや、こすっからしさをいまさら見せてもしょうがないというのもよくわかる。それでも、ざらついた感触の、塞がりかけた傷口がうずくような写真をもう少し見てみたいとも思う。それは無い物ねだりなのだろうか。
2010/10/13(水)(飯沢耕太郎)
第3回写真「1_WALL」展

会期:2010/09/21~2010/10/14
ガーディアン・ガーデン[東京都]
写真「ひとつぼ展」から名前が変わって3回目の「1_WALL」展。「ポートフォリオレビュー」による二次審査というハードルができたことで、たしかに全体的に出品作のレベルは上がってきている。今回は金瑞姫、天野祐子、いしかわみちこ、神崎雄三、伊藤哲郎、山野浩司の6名が二次審査を通過し、グランプリを決定する最終プレゼンに臨んだ。その結果グランプリに選ばれたのは、「光を見るための箱」というコンセプトで、さまざまな部屋とその住人をしっかりと撮影した金瑞姫の作品「Light」だった。
その選出に特に異論はない。金の作品の安定感とクオリティの高さは、やはり一歩抜けている。審査員(金村修、鈴木理策、鳥原学、町口覚、光田ゆり)も、2名連記の最終投票で全員が彼女に票を入れており、他の出品者とは圧倒的に差がついていた。ただ、この2名連記というのがやや問題で、もしかすると各審査員の一位ではなく、二位の票が集中したということも考えられる。そのあたりが、投票による審査のむずかしいところだろう。
個人的には、金瑞姫のそつのない平均点の高さよりは、いしかわみちこ「A」の歪んだアンバランスさや、天野祐子「around a pond」の何かが出てきそうな茫漠としたスケール感の方に魅力を感じた。とはいえ、金ももちろん才能あふれる作家で、次作では大きく飛躍しそうな予感もする。一年後に開催される予定の彼女の展覧会が、どんなふうになっているかが楽しみだ。
2010/10/13(水)(飯沢耕太郎)
山田周平「“アメリカの夜”[Day for Night]」

会期:2010/09/25~2010/10/23
AISHO MIURA ARTS[東京都]
滝口浩史、伊賀美和子に続いて、「写真新世紀」の出身者の展示を見ることができた。山田周平は2003年の同展で優秀賞(飯沢耕太郎選)を受賞している。僕自身もかかわったコンペの入賞者が、順調にそのキャリアを伸ばしているのを見るのはとても嬉しい。力があっても、さまざまな理由で制作活動を中断してしまう人も多いからだ。
今回の「“アメリカの夜”[Day for Night]」に出品されているのは、新作の「Untitled-park」のシリーズで、公園の風景の上半分が漆黒の闇に覆われているように見える作品である。同じ場所で昼と夜に同じ絞り、シャッタースピードで撮影した二枚の写真を合成したもので、シンプルだが、印象的で深みのあるイメージに仕上がっていた。山田はもともと、既存の眺めに何かを付け加えたり削ったりしながら、その意味合いを変換してしまう手法を展開してきた。今回は「記録した場所性の排除に加え、色、時間、までも削除の対象に」するという、徹底したミニマル化を試みた。以前に比べて、その手つきが洗練されてきているとともに、静止画像に加えて動画による作品にも意欲的に取り組んでいる。今後も、写真と映像作品の両方の分野にまたがる活動が期待できそうだ。
なお、タイトルの「“アメリカの夜”[Day for Night]」は、フランソワ・トリュフォー監督の1973年製作の映画から引用されたもの。カメラのレンズにフィルターをかけて、昼間に夜のシーンをつくり出すというトリック撮影のことだが、このシリーズの謎めいた雰囲気をより強調する効果的なタイトルだと思う。ただ、この映画のことをまったく知らない若い世代には、ちょっとわかりにくいかもしれない。
2010/10/08(金)(飯沢耕太郎)


![DNP Museum Information Japanartscape[アートスケープ] since 1995 Run by DNP Art Communications](/archive/common/image/head_logo_sp.gif)