2021年01月15日号
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artscapeレビュー

2018年11月01日号のレビュー/プレビュー

SOME Planning by THINKS ARTISTS

会期:2018/10/13~2018/11/04

アートラボはしもと[神奈川県]

八王子から相模原にかけての地域には多摩美、造形、女子美など美大が点在する。郊外なので工場跡や空き倉庫も多く、家賃も安いため、卒業後もこの地に留まり共同でスタジオを借りて制作を続けるアーティストが少なくない。そうしたスタジオ24軒が同時期に創作の場を公開する「SUPER OPEN STUDIO 2018」が開かれている。その中心的展示がこの「SOME Planning by THINKS ARTISTS」だ。さっそく文句をいうが、なぜアルファベットを使うのだろう? 外国人だけに見てほしいならそれでもいいが、大半は日本人のはず。日本人の脳ではアルファベットだとパッと見わかりづらいし、なにより目立たないので損だと思う。ダサいかもしれないが、カタカナか日本語表記に改めるべきだ。

ともあれ、その拠点となるアートラボはしもとではダイジェスト版ではないけれど、全館を使って各展示室ごとにテーマを設け、計33人の選抜アーティストの作品を紹介している。展示室でおもしろかったのは「169.8cm」をテーマにしたC室。久野真明の《「169.8cm」のための看板》は、木枠を継ぎ足した上にキャンバスを載せて看板をつくり、鏡文字で「169.8cm」と書いている。おそらく作者の身長とおぼしき高さのこの看板、作者の自画像と見ることもできる。久村卓の《展示のためのベンチ》は幅と色の異なる木材を座面に用いたシンプルなベンチ。タイトルの「展示のための」とは、これが展示作品であると同時に、展示するために使ったベンチとも、展示を見るためのベンチとも、逆に座ったら壊れるので見るだけのベンチとも読め、きわめて曖昧な存在になっている。今井貴広の《ほころびと永遠》と《呼気を巡る》は、この展示室に使われているアルミサッシを延長させたり、壁のひびに同調するような細工をしている。空間にツッコミを入れてる感じだ。

個々の作品では、パウロ・モンテイロの小さな金属の固まりを床に置いた作品や、大野晶の粘土による板状のミニマルな作品はいまの時代、なんとなく懐かしさを覚える。小林丈人はひらがなをモチーフに絵を描いているが、木材を立体的に組み立ててキャンバスを被せ、その上にひらがなを描いた小品が新鮮だ。最後の部屋は宮本穂曇と箕輪亜希子の2人だが、宮本の絵はオーソドックスながら、いやオーソドックスゆえもっとも魅力あるペインティングになっていた。一方、箕輪は天井から床に2本の角材を10脚ほど立て、その間に高さが異なるようにベニヤ板を張って文章を書いている。文章の内容はともかく、2本の角材とベニヤ板の組み合わせがギロチンのように見えて仕方なかった。意図したのだろうか。

これが屋内の展示で、屋外ではまた別企画の「野分、崇高、相模原」という野外展が開かれている(といってもここには2点だけで、ほか数カ所のスタジオでも開催)。ひとつは草むらにゴロンと置かれた小田原のどかによる子供の首像。長崎で被爆した天使の首を石膏で模造した「記念碑」だそうだ。一般に記念碑は土地に根づいた「不動産美術」だが、これは移動可能な「動産美術」としての記念碑。もうひとつはキャンバス画と割れた絵皿をなかば土中に埋めた水上愛美の作品(もう1点あったようだが見逃した)。なにか災害の後のようにも見えるし、数百年後に発掘された遺物のようでもある。前者が「不動産美術の動産化」であるとすれば、後者は「動産美術の不動産化」といえないこともない。

ところでこのアートラボはしもと、初めて訪れたが、2階建てで観客席のついたレクチャールームはあるわ、バス・トイレ完備のゲストルームはあるわ、いったいなんの建物だったんだ? 聞いてみたら、隣にそびえるタワーマンションのモデルルームを兼ねた事務棟だったらしい。作品の展示場所としてはけっこう広いし、生活感もあるのでアーティストにとってはチャレンジングな空間だ。でも隣接する広大な商業施設アリオ橋本に比べればざっくり100分の1程度だし、だいたい「アートラボ」としていつまで借りられるのかちょっと心配ではある。

2018/10/29(村田真)

つなぐ日本のモノづくり 〜51 Stories of NEW TAKUMI〜

著者:LEXUS NEW TAKUMI PROJECT
編集・執筆:下川一哉、杉江あこ
発行:美術出版社
発行日:2018/10/31
定価:3,900円(税抜)
サイズ:21.4×21.2×2.2cm、240ページ

トヨタ自動車の「レクサス」は、2016年より、日本全国の若き匠たちを応援するプロジェクト「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」を主催している。ここで匠と称する対象は、伝統工芸や地場産業に携わる職人や伝統工芸士、工芸作家、デザイナーなどで、年齢は30代が中心。本書は2年目となる2017年の同プロジェクトを紹介した書籍で、実は大半を私が執筆した。というわけで、制作側の視点から本レビューを書かせていただく。

タイトルの冒頭の言葉「つなぐ」は、本書の重要なテーマだ。本プロジェクトの流れをざっと説明すると、まず全国47都道府県の匠約50人が選出される。匠が一堂に会すキックオフ・セッションで、全体のオリエンテーションや担当サポートメンバーによる1対1のコンサルティングが行なわれる。その後、匠の工房を担当サポートメンバーが訪問し、コンサルティングを行なうエリア・コンサルティングが実施される。プレ・プレゼンテーションを挟み、最後にプレゼンテーション・商談会が開催される。

これらが1年かけて行なわれるなか、匠は自身の技や表現力をベースにしながら、未来に向かっていかに飛躍するかが試される。主催者から匠一人ひとりに対し、モノづくりのための支援金が一律に支給されるほか、普段はあまり接する機会のない建築やファッション、デザインなどの分野で活躍するプロデューサーやジャーナリストらのサポートメンバーからアドバイスを受けるという機会が用意される。ただしどんなに手厚い支援があっても、受け身でいては飛躍が望めない。匠自らが積極的に動き、試作を繰り返し、生みの苦しみを乗り越えてこそ、未来は開く。その際に手がかりとなるのが、つなぐ行為だ。担当サポートメンバーとのつながり、匠同士のつながり、地元の知り合いや他業種の人とのつながり、そうした人と人とのつながりがモノづくりに大きなヒントをもたらす。

本書では、51人の匠一人ひとりの物語を紹介している。モノづくりに人とのつながりをうまく取り入れた匠もいれば、なかにはほぼ自力で挑んだ匠もいる。いずれも若き匠たちのチャレンジ物語として読んでもらえると嬉しい。と同時に全国47都道府県の伝統工芸や地場産業の現状を知る機会にもなるはずだ。また、田園や藍畑、陶石の採掘場といった日本の風景写真を挟み込み、一次産業と二次産業とのつながりについても少し触れている。このようにいろいろな角度から、つながることのポテンシャルを示した。つなぐ行為はクリエーションの一部なのだ。

発行元公式ページ:http://www.bijutsu.press/books/2018/10/-51stories-of-new-takumi.html
LEXUS NEW TAKUMI PROJECT:https://lexus.jp/brand/new-takumi/

2018/11/04(杉江あこ)

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