artscapeレビュー

松山賢「絵の具の絵」

2011年10月15日号

会期:2011/08/24~2011/09/05

新宿高島屋10階美術画廊[東京都]

これはおもしろい。今月のベスト1。って9月はまだこれしか見てないけど、メダルはほぼ確実だ。文字どおり「絵の具」を描いている。白い皿に赤とか青とか黄色とかの絵具を出してていねいに描写し、背景も同じ色に塗っている。それだけなのだが、この絵のおもしろいところは、たとえばウルトラマリンブルーの絵具を描くとき、素人ならウルトラマリンブルー一色で描けると思いがちだが、もちろんそんなはずはなく、陰影や立体感を出すにはさまざまな色を使わなければいけないこと。つまり「青色」と青色の「絵の具」は別のものだということがわかるのだ。さらにこの絵が正方形の分厚いキャンヴァスに原寸大で描かれているため、だまし絵の効果が倍増すること。とくに真上から描いた作品(壁掛けではなく卓上に水平に置く)にそれが顕著だ。作者によれば「抽象画でも具象画でも、画面に何が描かれているかではなく、何色がどのような形でどのように描かれているかというように見えます。赤い色の面は、赤い色の絵具が塗られたものにすぎないのです」。絶対音感ならぬ「絶対色感」ともいうべき感覚を持った画家ならではの言葉だ。ほかに、小動物の頭蓋骨やミイラ、ミニカーなどを原寸大で描いた小品に、昆虫と少女の組み合わせという松山ならではのモチーフもある。さらに奥のほうには虹色で同心円を描いた3点の連作があって、松山にしては乱暴なタッチなので一瞬なんだろうと首をひねったらわかった。画面下の空白部分が東北地方を横倒しにした白地図になっていて、同心円が震源地からの波(振動波や津波)の伝播を表しているのだ。うーむ松山画伯ともあろうお方までもが大災害に心を痛めておられるとは。いやけっこうモチーフが広がったと内心ほくそ笑んでおられるかも。

2011/09/01(木)(村田真)

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