artscapeレビュー

アーティスト・ファイル2013──現代の作家たち

2013年03月15日号

会期:2013/01/23~2013/04/01

国立新美術館 企画展示室2E[東京都]

国立新美術館の学芸員たちが、それぞれ気になるアーティストたちを選出して、個展の集合のかたちで展示する企画。多ジャンルの、あまりきちんと紹介されていない作家の作品を見ることができる貴重な機会となっている。5回目となる今回は、ダレン・アーモンド(イギリス)、ヂョン・ヨンドゥ(韓国)、ナリニ・マラニ(インド)、東亭順(以下日本)、利部志穂、國安孝昌、中澤英明、志賀理江子の8人が選ばれている。
ダレン・アーモンドの瞑想的な月光の下での風景写真、ナリニ・マラニの内蔵感覚の発現と言うべきドローイングと映像など、興味深い仕事が多かったが、やはり圧巻は志賀理江子の「螺旋海岸」のインスタレーションだろう。2012年11月~13年1月にせんだいメディアテークで開催された展覧会の縮小版と言うべきもので、点数が半分以下に減った作品は、螺旋状ではなく折り重なるように不定形に並べられ、照明もフラットなものになっている。だが、観客を否応なしに巻き込んでいく彼女の作品世界の圧倒的なパワーは、ここでも充分に伝わってきた。
この展示について、三沢典丈が『東京新聞』夕刊(2013年2月15日付)に掲載した美術展評で疑義を呈している。志賀は等身大以上に引き伸ばした写真を木製の支持体に貼り付け、斜めに立てかけるインスタレーションのかたちで作品を展示した。三沢はこのやり方だと「見る者に被災地への思いを獲得させるのと引き換えに、作品と向き合う静寂な時空は犠牲になる」と書く。さらに「被災地から近い会場なら、この形式は共感として了解され、視線の妨げにはならないだろう。だが遠い東京で見る者が、被災地の様子を漠と想起するだけなら、雑念となりかねない」と書き継いでいる。
このような一見もっともらしい、安全地帯に身を置いた見方こそ、志賀が激しく忌避し、身をもって挑発しようとしているものだろう。志賀の写真は、まさに三沢が避けるべきだと提言する「物質性」を露にして見る者に襲いかかる。被災地から遠い東京での展示だからこそ、逆にその荒ぶるノイズ(雑念)を全身で受け止める態度が求められているのではないだろうか。

2013/02/16(土)(飯沢耕太郎)

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