artscapeレビュー

岡本太郎のシャーマニズム

2013年06月15日号

会期:2013/04/20~2013/07/07

川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]

岡本太郎の作品のバックグラウンドに、パリ時代(1930~40)に学んだ人類学や哲学があることはよく指摘されてきた。パリ大学ソルボンヌ校ではマルセル・モースやアレクサンドル・コジェーブに師事し、特異な思想家、文学者でもあったジョルジュ・バタイユとも交友があった。
だが、ルーマニア出身の宗教学者、ミルチャ・エリアーデ、とりわけ彼のシャーマニズム論が、岡本太郎の作品の展開に与えた影響については、ほとんど語られてこなかった。岡本の蔵書のなかには、フランスで出版されたエリアーデの原著が6冊あり、特に『シャーマニズム──古代的エクスタシーの技法』(1951)は、すり切れるほど熱心に読んだ形跡があるという。本展は、エリアーデと岡本太郎との思想的なかかわりを、絵画、彫刻、写真などの作品に即して再構築しようとする意欲的な企画である。
例えば1952年制作のモザイク・タイル画「太陽の神話」は、画面右に「生命の樹」が、中央に太陽が、そして左側には月の形象が配置されている。この構図はエリアーデの『シャーマニズム』の、「この六本の枝(房の付いたてっぺんの枝を含むと七本)と両側に太陽と月を伴って表現されているものであるが、これが時としてシャーマンの梯子」という部分に対応するものだ。写真で言えば、『日本再発見─芸術風土記』(1958)、『忘れられた日本─沖縄文化論』(1961)、『神秘日本』(1964)などの著作に収録された写真群は、明らかにエリアーデのシャーマニズム論を踏まえて撮影されていることが見えてくる。
岡本太郎の作品をシャーマニズムという観点から読み解くことは、単に彼自身の思想的なバックグラウンドに新たな光を投じるということだけに留まらない。「3.11」以後の思想や表現は、前近代的な思考として退けられてきたシャーマニズムが、むしろ自然と人間との共生の可能性を秘めた新たなパラダイムとして浮上しつつあることを指し示しているように思えるからだ。岡本太郎が、常に立ち返るべき「原点」を提示し続けたアーティストであることを、あらためて思い知らされた展示だった。

2013/05/14(火)(飯沢耕太郎)

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