artscapeレビュー

あいち建築ガイド

2013年08月15日号

発行所:美術出版社

発行日:2013年7月27日

あいちトリエンナーレ2013の公式ガイドブックには、ぽむ企画によるイラスト付き名古屋建築のエッセイを収録したが、これとは別に155件を紹介する『あいち建築ガイド』が刊行された。芸術祭に併せて、建築マップもつくるのは相当大変だったが、あいちならではの試みになった。トリエンナーレで155の作品が増えたと思って、街歩きを楽しんでもらうことが、制作の狙いである。以下に「あいち建築ガイド」の特徴を挙げよう。
第一に、愛知県全域からまんべんなくというよりは、名古屋の中心部と岡崎など、あいちトリエンナーレの会場周辺やオープンアーキテクチャーの物件絡みが詳しくなっていること。したがって、前回と今回の会場になっているまちなかのビル、アート関係の建築などを小まめに拾っている。まちなか展開の作品を巡るとき、この本も持っていると、まわりの一見普通に見えるビルも楽しむことができるだろう。とはいえ、もちろん豊田市美術館などの重要な建築は入っている。第二に、トリエンナーレが記憶をテーマにしていることから、すでに消えた建築も入っていること。例えば、先日見たらもう解体されていた大名古屋ビルヂング、旧国鉄名古屋駅などである。第三に、通常こうした建築ガイドにないインテリア物件も、MESHの会の協力で、多数紹介していること。第四に、東海テレビの街歩きで有名な高井一と五十嵐で建築散歩する対談を巻頭に収録しつつ、また渋ビル、地下街、劇場、結婚式教会、都市計画、ランドスケープなどのコラムを収録したこと。許可がもらえず、泣く泣く掲載できなかった物件も、こちらの文章で触れることになった。最後に本書の序文を引用しよう。トリエンナーレが終わっても、「建築は存在し続けている。まちなかはミュージアムなのだから。そう、建築を楽しめるスキルを身につけると、まちなかは終わらない展覧会として、いつも目の前に広がっている」。

2013/07/26(金)(五十嵐太郎)

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