artscapeレビュー

クリウィムバアニー『ニューーーューーューー』

2014年06月01日号

会期:2014/05/17~2014/05/18

シアタートラム[東京都]

売り文句が「300ぷんぶっとおし」だったものだから、よっしゃと12,000円の300分券を購入した。ただしこれ、「300分の公演」と受け取ることもできるが、四等分し「75分を1公演」としてチケット販売してもいるのだった(むしろ、実際はマジョリティはこれを買っただろう)。75分の最初の20分はシアタートラムの空間にあれこれと縁日の「店」みたいな、小さなアトラクションがありそれを楽しむようになっていて、残り時間が上演タイム。Open Reel Ensembleとの共作であることも手伝って、予想していたものよりずっと「ちゃんとした公演」だった。なにせ、前回シアタートラムで行なった『がムだムどムどム』は「遊覧型ぱふぉーまんす!」と銘打つだけあって、空想の公園のような空間に放り出された観客は散策路を伝い、あちこちで勝手に起きていることを歩きながら観察するというものだったから、今回はさらに濃密になって、徹底的にクリウィムバアニー・ワールドを体感することになるだろうと勘ぐっていた。なので、75分ワンパッケージを4回繰り返すだけなら、酔狂なファンが見たいだけ見たというだけのことになってしまうよと最初の75分が終わったとき、危惧したのだ。しかし、それは2回目以降、杞憂だったことがわかった。まず2回目で音楽が変わった。1回目の明るいOpen Reel Ensembleらしい色調が薄れ、ダークなニュアンスが濃くなった。すると、白シャツの清楚男子とキャミソールの女子の二組が、対立的に見えなくなって、その分、振付家・菅尾なぎさが伝えたいだろう、「女子の孤独感」や「見せたい欲求」や「そのことに飽きている感じ」や「クレイジーなユーモア」など、彼女の繊細な感覚が伝わりやすくなっていった。人間以下の動物のように、空間を徘徊し、見る者の欲求に応えるかわいい商品のごとく媚を売る彼女たちは、現今の社会が規定してくる女性らしさに囚われながら、囚われからの解放を希求するといったシンプルな結論に逃げ込めずに、囚われの快楽を味わいつつも憎悪を密かに蓄えているかのようだ。憎悪はときに、若干用意された椅子席にたまたますわった観客を「いけにえ」と呼んで、舞台に上げ、オブジェとしてさらす暴挙に出る。丸い舞台の周りを車の付いた台にのって、女の子(クリームちゃん)たちが周回すると、優雅だが、回転寿しにも見えてくる。実際、彼女たちから絞られた(ビーチチェアに寝そべる女の子の下からイクラの粒が製造されていたのだ)イクラが軍艦になって、宙を舞うなんて演出もあった。意外かもしれないが、「女子」を見つめるまなざしは関かおりのダンスに似ていた。ただし、ダンサーたちを身体の内部に至るまで造形する関に比べると、菅尾が振り付けた女の子たちは、振り付けと身体が分離して見える。だからこそ、ここでは疲労する身体それ自体が見るべきものになっているのだろう。3回目あたりの疲労がピークのクリームちゃんたちの倦怠が一番見応えあったが、4回目はほぼ1回目の内容と同じだったのがちょっと残念。300分見たひとにだけわかる大団円があったらよかったのに(筆者が気づかなかっただけか?)。

2014/05/18(日)(木村覚)

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