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2018年08月01日号
次回9月3日更新予定

artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

アリン・ルンジャーン「モンクット」展

会期:2017/10/28~2017/11/26

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

本展は、今夏から秋にかけて京都で行なわれた、東アジア文化都市2017京都「アジア回廊 現代美術展」の関連事業。アリン・ルンジャーン(1975年バンコク生まれ)は、タイ国内のみならず欧米やアジア各地で活躍する現代アーティスト。2013年の第55回ヴェネチア・ビエンナーレに出品された彫刻インスタレーション《Golden Teardrop》は、2015年の「PARASOPHIA:京都国際芸術祭」(京都市美術館)でもお目見えしたので、思い出した人も多かろう。筆者はこのとき、彼の新作《骨、本、光、蛍》が扱う題材、歴史的物語の詩情あふれる語り口、繊細な映像美に強く心を動かされた。今年は、カッセル/アテネの「ドクメンタ14」でも新作《246247596248914102516... And then there were none》を発表した。彼がドクメンタに招聘されることになったのが、本展の出品作《モンクット》(2015年、パリ)である。本作もやはり複合的な作品で、会場1階には映像作品に関連するインスタレーションが展示され、2階ではビデオが上映された。「モンクット」とは王冠を意味し、モンクット王/ラーマ4世が受け継いだ王冠を複製し、そのレプリカをナポレオン3世に贈ったという歴史秘話が題材となっている。ストーリーには、王冠を巡るさまざまな表象が包含されている。場所はフォンテーヌブロー宮殿、パリのギメ東洋美術館のキュレーターの眼を通して、タイとフランスの外交史や文化的背景から語りが始まる。次にモンクット王の子孫にあたる金工職人による王冠の制作技法へと語り手と場面がともに転換する。この女性職人が映像内で仕上げた王冠レプリカ(正確には19世紀に複製されたレプリカのレプリカだが)が実際の展示室で展観されるという、凝った仕掛けなのである。[竹内有子]

2017/11/15(日)(SYNK)

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死なない命/コンニチハ技術トシテノ美術/野生展:飼いならされない感覚と思考

死なない命(金沢21世紀美術館、2017/07/22~2018/01/08)
コンニチハ技術トシテノ美術(せんだいメディアテーク、2017/11/03~2017/12/24)
野生展:飼いならされない感覚と思考(21_21 DESIGN SIGHT、2017/10/20~2018/02/04)

自然と技術の関係について考えさせられる展覧会がいくつか開催されている。「死なない命」展は、展示物だけでは全体を把握するのが困難だったが、学芸員の高橋洋介氏の案内で見たおかげで理解が深まった。トップのやくしまるえつこは、なんちゃってサイエンス・アートではなく、ガチで音楽を記憶するメディアとしての遺伝子に挑戦している。写真家のエドワード・スタイケンは、植物の品種改良にのめり込み、これをテーマにしてMoMAで展覧会まで開催したという。ほかにもBCLによる遺伝子組み替えのカーネーション、川井昭夫による彫刻としての植物などがあり、攻めた企画である。これで思い出したのが、石上純也によるヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展2008の日本館における温室のプロジェクトにおいて、彼のヴィジョンを本当の意味で完成させるには、現存する植物では不可能で、植物も新しく創造する必要があったことだ。究極のアートである。

ユニークな会場構成となった「コン二チハ技術トシテノ美術」展は、興味深い作家を選び、手の技に基づく生きる術としてのアートを掲げている。例えば、修復の技術を独自に改変させた青野文昭は、極小の作品を新規に増やし、貫禄のある彫刻群のインスタレーションをつくり出す。また井上亜美は狩猟をテーマとし、門馬美喜は「相馬 野馬懸け」をモチーフにした神々しい馬を描く。「死なない命」展のようなハイテクではないが、プリミティブな技術による人と自然、もしくはモノの関係をダイナミックにとらえている。中沢新一がディレクターをつとめる「野生」展も、おなじみの南方熊楠や縄文を紹介しつつ、「飼いならされない感覚と思考」のサブタイトルをもつ(なお、英語タイトルに含まれる「TAME」の語は、あいちトリエンナーレ2019と共通する)。ただし、全体的なデザインがおしゃれ過ぎるのが気になった。これでは商品として消費されるのではないかと。


川井昭夫(死なない命)


青野文昭(コンニチハ技術トシテノ美術)


「野生展」会場風景

2017/11/09(木)(五十嵐太郎)

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「織物以前 タパとフェルト」展

会期:2017/09/08~2017/11/21

LIXILギャラリー大阪[大阪府]

織機が生まれる以前、布の始まりはどのようなものだったろう。本展は、オセアニア(パプアニューギニア、フィジー、トンガ)の「タパ(樹皮布)」と、東南アジア(新疆ウイグル自治区カシュガル、トルコ)の「フェルト」を紹介し、布文化の始原を探るもの。そもそも、機織りによる織布は、オセアニアのごく限られた地域にしか伝播しなかったという。その代わりに不織布、つまり編布やタパが発達して、今日にまで伝えられている。タパは、カジの木の外皮を剥がし、水に晒して柔らかくした後、ハンマーなどで叩いて伸ばして作る。一見、紙のようにも見える素朴な材質感が魅力だ。製造に使う道具も展示で見ることができる。しかしその魅力を最大限にまで高めているのが、民族独自の装飾文様である。展示品の出品者でもある福本繁樹氏によれば、その装飾には神話、氏族の由来や名誉を表す重要な意味がある。皮膚に施すボディペインティングが、衣に変容したものと見られるそうだ。一方、遊牧民族が用いるフェルトのあたたかみにも独特の味わいがある。羊毛を幾層にも重ねて熱や圧などで加工し、シート状にしたものがフェルト。珍しい形のマントやアースカラーの美しい敷物が展示されている。世界の豊かな民族文化に触れて、手仕事と技術発展の意味、そして衣を纏うことの歴史の重層性について考えさせられる。[竹内有子]

2017/10/2(日)(SYNK)

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更紗のきもの

会期:2017/10/03~2017/11/21

文化学園服飾博物館[東京都]

「更紗」とはインドを起源とする染物の総称。いつ頃から始まったのかは定かではないが、13世紀には大量生産が可能なほど、技術は発達していたという。技法としては手描きもあれば、プリントもある。染められる布は主に綿だが、絹や化繊もある。11-12世紀にはジャワ、そして17世紀以降にはヨーロッパ、日本でも江戸時代に作られるようになり、それぞれジャワ更紗、オランダ更紗、和更紗などと呼ばれている。染め方も素材も地域もさまざまとなると他の染色と何が違うのか、何が「更紗」なのかよく分からなくなるが、ブリタニカ百科事典には「人物、鳥獣、植物などの種々の模様を捺染」とあり、漠然と文様のありかたによって区別されるようだ。
展示はインド更紗から始まり、それが交易品として世界に広がり、世界各地の染織に影響を与え、模倣品を生み出した様子、そして明治から昭和初期の日本における更紗が紹介されている。インド更紗が交易品として各地で珍重された理由は、化学染料がなかった時代に、藍や茜を主体とした鮮やかな色彩の染色を他の地域ではできなかったからだ。ヨーロッパ各地では、インド更紗の輸入増大が貿易に不均衡をもたらし、輸入の制限、模倣と自国における生産が模索される。結果的にイギリスにおいて綿工業が産業革命の原動力のひとつとなったことはいうまでもない。アジアでは手仕事による模倣が行なわれたが、ヨーロッパでは染色工程には銅版プリントやシリンダーを用いた連続生産が導入された。日本に更紗がもたらされたのは16-17世紀(室町時代末~江戸時代)。南蛮貿易によってもたらされた文様染め木綿布が更紗と総称されたという。船載品はインド製のみならず、江戸時代後期にはヨーロッパ製のプリント綿布も輸入される。他方で江戸時代初期には日本でも輸入更紗を模倣した和更紗の製作が始まるが、輸入品のような鮮やかな色彩のものはつくることができなかったため、輸入品は変わらず珍重された。明治時代になると身分制による衣服の制限がなくなった。世界各地の文様が染色に取り入れるなかで更紗文様にも注目が集まり、明治から昭和初期にかけて更紗文様の図版集が相次いで出版された。『更紗圖案百題』(高橋白扇編、岸版画印刷所、1926年/大正15年)には、古渡り風の更紗、和風の文様の他に、ヨーロッパ、オリエント、アンデスなど世界各地の文様が収録されており、さまざまな文様が「更紗」と呼ばれ参照されていたことを示している。
展示品のなかでも印象的な逸品は三井家旧蔵「更紗切継ぎ杜若文様小袖」(江戸時代後期)。小袖の肩、裾、衽に17世紀から19世紀初めまでのものと考えられるインド製の22種類の更紗が継ぎ合わされている。古渡り更紗は小さな裂で家が買えるほどの価格であったと聞く。更紗に加えて胴には杜若(かきつばた)を手描きと刺繍で表したこの小袖は、どれほど高価なものであっただろうか。[新川徳彦]


展示風景

公式サイト:http://museum.bunka.ac.jp/exhibition/

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西洋更紗 トワル・ド・ジュイ|SYNK(新川徳彦):artscapeレビュー

2017/10/19(木)(SYNK)

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フィンランド独立100周年記念 フィンランド・デザイン展

会期:2017/09/09~2017/10/22

府中市美術館[東京都]

1159年から1809年まではスウェーデンの支配下、1809年から1917年まではロシアの支配下にあったフィンランドが独立して100年。本展では、フィンランドの独立前、1900年のパリ万国博覧会から現在までのフィンランド・デザインを時代順に6章に分けて概観している。興味深い展示は、1900年前後の工芸品。フィンランド・デザインというと、一般的には第二次世界大戦後の北欧デザイン・ブーム、モダン・デザインのプロダクトを目にすることがほとんどで、独立以前の装飾的な工芸品を見る機会はほとんどないからだ。出品されている陶磁器やガラス器は、西欧のデザイン史的にはアール・ヌーヴォー期の終わりに相当する時期のものだと思うが、器の形や文様は比較的シンプルでその後のモダン・デザインへの流れを想起させる。柏木博は世紀転換期に「力強さと率直さがフィンランドのデザインの方向を特徴づけた」と書き、その背景としてフィンランドが北欧の中でも貧しい地域であったことを挙げている(本展図録、21頁)。たしかに、西欧のアール・ヌーヴォーの装飾は工業的生産に適せず、高価で、主に新興富裕層のためのデザインであったことが指摘されるが、フィンランドにおいては経済的状況ゆえに比較的シンプルなデザインが生まれたのだとしたら、その伝統がその後に消費者として台頭してきた欧米や日本の市民にに受け入れられるものになったと考えてもおかしくない。プライウッドを用いたアルヴァ・アアルトらの家具、絵付けのない色彩のみによるカイ・フランクの陶磁器やガラス器、織ではなく、伝統的な染やプリントでもなく、安価なシルクスクリーン印刷を用いたマリメッコのテキスタイルもまた、そうした国家の歴史的経緯のなかから必然的に生まれてきたデザインと考えることもできようか。
フィンランド・デザインの展覧会というと、トーベ・ヤンソンのムーミン・シリーズは欠かせない。とはいえ、トーベ・ヤンソンの仕事は「デザイン」なのかという点に筆者は常々疑問を抱いているのだが、ここではムーミン・シリーズに登場するキャラクターを用いたフィンレイソン社のプリント・ファブリックや、トーベ・スロッテによってアレンジされたアラビア社のマグカップやタイルなど、キャラクター・グッズが数多く紹介されており、たしかにこれはデザインという文脈で紹介されうる仕事だと納得させられたのだった。
なお本展は、宮城県美術館に巡回する(2017/10/28~12/24)。[新川徳彦]


会場風景

2017/10/19(木)(SYNK)

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