2018年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

マリメッコ・スピリッツ──パーヴォ・ハロネン/マイヤ・ロウエカリ/アイノ=マイヤ・メッツォラ

会期:2017/11/15~2018/01/13

ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)[東京都]

フィンランドのファブリックブランド、マリメッコの人気が日本で高まったのは2000年代に入った頃だろうか。ちょうど北欧デザインのブームと相まって、あの明るい赤とピンクの花柄ファブリック「ウニッコ」を街中でもよく目にした。ただしマリメッコの社史を調べると、1972年に日本と米国で海外ライセンス契約を結んだとあるから、実はそれより30年近く前から日本に入っていたことになる。当時は一時のブームで終わるのかと思っていたが、そうではなかった。今なお人気は健在で、むしろ定番化したように見える。それほど多くの人々を魅了し続けるマリメッコの魅力とは何なのか。

現在、マリメッコには新旧合わせて30人近くの契約デザイナーがいる。そのうち、才能あるパターンデザイナー3人、パーヴォ・ハロネン、マイヤ・ロウエカリ、アイノ=マイヤ・メッツォラの仕事を紹介したのが本展だ。いずれも30〜40代の若手ばかり。ファブリックはもとより、展示の見どころは原画であった。フェルトペンで描いたような素描から、水彩画や切り絵など、それはもう種々様々。切り絵は日本の伊勢型紙のようでもあり、それを原画にしたファブリックは独特の雰囲気を持っていた。つまりマリメッコに人々が魅了される理由はここにあるのではないかと思う。デザイナーが自由にアイディアを練り、丁寧に一筆一筆を手描きしたものだからこそ、原画に力があるのだ。手作り(クラフト)の魅力である。


左:Aino-Maija Metsola 《Juhannustaika(真夏の魔法)》 (2007)
右:Paavo Halonen《Torstai(木曜日)》 (2016)

一方で、本社内にあるプリント工場の様子が映像で紹介されていた。そこに映るのは巨大なロール式スクリーン印刷機である。毎年、100万メートルの生地をプリントしているのだという。これを見ると、マリメッコはあくまでも工業製品(プロダクト)で成功を収めてきたブランドであることを思い知る。当然、そうでなければ世界進出はできていない。クラフトとプロダクト、一般的には相反するこの両面を併せ持ったブランドだからこそ、今のマリメッコの人気があるのだろう。本展ではさらに「JAPAN」をテーマにした作品も展示されており、その解釈は三者三様で興味深かった。

2017/11/17(金)(杉江あこ)

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TAKT PROJECT「SUBJECT ⇋ OBJECT」

会期:2017/11/18~2017/12/03

アクシスギャラリー[東京都]

デザインの展覧会はもはやモノを見せることではない、思考を見せることである。本展を見て、そう強く感じた。TAKT PROJECTは、吉泉聡をはじめとする4人から成るデザイナー集団である。彼らはプロダクト、グラフィック、建築とそれぞれに異なる専門領域を持つため、ひとつのプロジェクトに対して、横断的に思考することができるうえ、ワンストップでデザイン提案できることが強みだ。新進気鋭のデザイナー集団として、いま、デザイン業界で注目されている。そんな彼らが設立5年目にして初の個展を開いた。


展示風景
アクシスギャラリー
撮影:林雅之

本展では、TAKT PROJECTがこれまでに行なってきた自主研究プロジェクトを中心に7つの事例が展示されていた。いずれも主題「SUBJECT」に対し、それを具現化した物「OBJECT」を展示するという構成である。その一つひとつの主題はまさに「問いかけ」とも言うべきで、彼ららしい思考のプロセスが見て取れる。例えば「素材とプロダクトの境界線を探る」という主題では、電子部品とアクリル樹脂を混ぜ合わせた電気が通る複合材で、懐中電灯や電気スタンドとして機能する物体を作った。一般的に、家電は電子部品が外装材で覆われた作りになっている。しかし彼らは粘土をこねて器を作るかのように、素材そのものが製品となるようなシンプルな家電の作り方を探った。

このように「こうあるべき」という既成概念や枠組みから抜け出すことで、別の可能性につながるのではないかと彼らは思索する。最もユニークな主題だったのは「音楽的に創造する」で、街で環境音を録音するフィールド・レコーディングに着想を得て、レコーダーの代わりにハンディー3Dスキャナーを持ち、街でさまざまな物の形を採取し、そのCADデータを元に新たな造形を作った試みである。おそらくデザインに関わりのある者以外は、これらの主題はややマニアックに映るに違いない。しかも展示物は、今すぐ製品化できるものばかりではない。それでもあえて問いかけるのは、彼らが慣習通りのデザイン手法に満足することなく、何かしらのブレイクスルーを常に求めているからだ。こうした姿勢を持ち続けているからこそ、彼らから革新的なデザインが多く生まれているのである。


TAKT PROJECT《COMPOSITION》
撮影:林雅之

2017/11/17(金)(杉江あこ)

植物画の黄金時代──英国キュー王立植物園の精華から

会期:2017/09/16~2017/12/03

JPタワー学術文化総合ミュージアム「インターメディアテク」[東京都]

キュー王立植物園が所蔵する18-19世紀に描かれた植物画28点と合わせて、東京大学が学術資料として明治期から採取してきた植物標本を紹介する展覧会。本展の特徴は、植物画に対応する実物標本を組み合わせて併置していること。昨年、筆者はキューガーデンを訪れたけれども、植物画を展示する付属施設「シャーウッド・ボタニカル・アートギャラリー」でこのような方法は採用していなかった。つまりこれは、キュー王立植物園と東京大学の学術的コラボレーションによる賜物といえよう。ボタニカル・アートとは本来、美の基準だけを満たすものではなく、科学的に精密な描写が求められる。出展作のいくつかには、インクと水彩で描かれた植物の主な図像に対して、小さい部位を鉛筆で下書きした跡が見られる。花の正確な構造を示すため、諸器官の解剖学的な分析は必須だった。双方を併置する妙とは、実物標本の圧倒的なマテリアリティが見る者に迫り、植物画にはない「質感」を提示できること。サイエンスとアートの融合である、植物画を総合的に堪能できる。同時代のデザイナーにとって、「自然のかたち」は拠り所となる共通のモデルであったから、造形活動や芸術理論に活用されたことが想い浮かぶ。近代とは、自然科学が急速に進展をみた時代。展示自体は小規模であるが、インターメディアテクの全館内を観覧すれば、より視野が広がる。植物界、動物界、鉱物界と、それらとは対照的に人工によって生み出されてきた産物、すべてがそこにある。館内はまさに近代性を表象するような、独特な世界観で形作られている。あてどなく歩いて展示物を見るうちに、さまざまなインスピレーションや気付きが得られそうだ。[竹内有子]

2017/11/15(水)(SYNK)

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アリン・ルンジャーン「モンクット」展

会期:2017/10/28~2017/11/26

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

本展は、今夏から秋にかけて京都で行なわれた、東アジア文化都市2017京都「アジア回廊 現代美術展」の関連事業。アリン・ルンジャーン(1975年バンコク生まれ)は、タイ国内のみならず欧米やアジア各地で活躍する現代アーティスト。2013年の第55回ヴェネチア・ビエンナーレに出品された彫刻インスタレーション《Golden Teardrop》は、2015年の「PARASOPHIA:京都国際芸術祭」(京都市美術館)でもお目見えしたので、思い出した人も多かろう。筆者はこのとき、彼の新作《骨、本、光、蛍》が扱う題材、歴史的物語の詩情あふれる語り口、繊細な映像美に強く心を動かされた。今年は、カッセル/アテネの「ドクメンタ14」でも新作《246247596248914102516... And then there were none》を発表した。彼がドクメンタに招聘されることになったのが、本展の出品作《モンクット》(2015年、パリ)である。本作もやはり複合的な作品で、会場1階には映像作品に関連するインスタレーションが展示され、2階ではビデオが上映された。「モンクット」とは王冠を意味し、モンクット王/ラーマ4世が受け継いだ王冠を複製し、そのレプリカをナポレオン3世に贈ったという歴史秘話が題材となっている。ストーリーには、王冠を巡るさまざまな表象が包含されている。場所はフォンテーヌブロー宮殿、パリのギメ東洋美術館のキュレーターの眼を通して、タイとフランスの外交史や文化的背景から語りが始まる。次にモンクット王の子孫にあたる金工職人による王冠の制作技法へと語り手と場面がともに転換する。この女性職人が映像内で仕上げた王冠レプリカ(正確には19世紀に複製されたレプリカのレプリカだが)が実際の展示室で展観されるという、凝った仕掛けなのである。[竹内有子]

2017/11/15(日)(SYNK)

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死なない命/コンニチハ技術トシテノ美術/野生展:飼いならされない感覚と思考

死なない命(金沢21世紀美術館、2017/07/22~2018/01/08)
コンニチハ技術トシテノ美術(せんだいメディアテーク、2017/11/03~2017/12/24)
野生展:飼いならされない感覚と思考(21_21 DESIGN SIGHT、2017/10/20~2018/02/04)

自然と技術の関係について考えさせられる展覧会がいくつか開催されている。「死なない命」展は、展示物だけでは全体を把握するのが困難だったが、学芸員の高橋洋介氏の案内で見たおかげで理解が深まった。トップのやくしまるえつこは、なんちゃってサイエンス・アートではなく、ガチで音楽を記憶するメディアとしての遺伝子に挑戦している。写真家のエドワード・スタイケンは、植物の品種改良にのめり込み、これをテーマにしてMoMAで展覧会まで開催したという。ほかにもBCLによる遺伝子組み替えのカーネーション、川井昭夫による彫刻としての植物などがあり、攻めた企画である。これで思い出したのが、石上純也によるヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展2008の日本館における温室のプロジェクトにおいて、彼のヴィジョンを本当の意味で完成させるには、現存する植物では不可能で、植物も新しく創造する必要があったことだ。究極のアートである。

ユニークな会場構成となった「コン二チハ技術トシテノ美術」展は、興味深い作家を選び、手の技に基づく生きる術としてのアートを掲げている。例えば、修復の技術を独自に改変させた青野文昭は、極小の作品を新規に増やし、貫禄のある彫刻群のインスタレーションをつくり出す。また井上亜美は狩猟をテーマとし、門馬美喜は「相馬 野馬懸け」をモチーフにした神々しい馬を描く。「死なない命」展のようなハイテクではないが、プリミティブな技術による人と自然、もしくはモノの関係をダイナミックにとらえている。中沢新一がディレクターをつとめる「野生」展も、おなじみの南方熊楠や縄文を紹介しつつ、「飼いならされない感覚と思考」のサブタイトルをもつ(なお、英語タイトルに含まれる「TAME」の語は、あいちトリエンナーレ2019と共通する)。ただし、全体的なデザインがおしゃれ過ぎるのが気になった。これでは商品として消費されるのではないかと。


川井昭夫(死なない命)


青野文昭(コンニチハ技術トシテノ美術)


「野生展」会場風景

2017/11/09(木)(五十嵐太郎)

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