artscapeレビュー

どうぶつかいぎ展

2022年03月15日号

会期:2022/02/05~2022/04/10

PLAY! MUSEUM[東京都]

これほどタイムリーなテーマの展覧会があるだろうか。私が本展に足を運んだのは、奇しくも、ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始した翌日だった。21世紀に入り、世界を大きく揺るがす侵略戦争がまさか起こるとは思ってもみなかったというのが正直な気持ちだ。

本展は1949年に出版された絵本『動物会議』を基にした展覧会である。作者はドイツ人のエーリヒ・ケストナーとヴァルター・トリアーのコンビ。本展の第1幕は「まったく、人間どもったら!」と怒り散らす、ゾウ、ライオン、キリンたちの集会から始まる。彼らの怒りの矛先は、人間が戦争を始めようとしていることに向かっていた。その被害者は紛れもなく子どもたちであることを嘆くのだ。そう、この絵本が書かれた背景には第二次世界大戦があった。ナチスが台頭するドイツ国内で、作者ら自身も翻弄され、それぞれが国外逃亡することで生き延びたのだという。その作者ら自身の怒りが、絵本では動物たちの姿を借りて表現されていた。


PLAY! MUSEUM「どうぶつかいぎ展」会場写真[撮影:加藤新作]


さらに絵本では以下のように物語が展開していく。動物たちは一致団結して立ち上がり、最初で最後の「動物会議」を開き、人間たちに毅然とこう突きつける。「二度と戦争がおきないことを要求します!」。その交渉は難航するが、「子どもは世界の宝」のとおり、子どもたちを愛する気持ちは動物たちも人間たちも同意であることをテコに、動物たちの作戦勝ちで、最後には平和を手に入れる。


梅津恭⼦《無題》(2021)


本展もこの物語に沿い、8人のアーティストたちの作品で構成されていた。圧巻は薄暗い空間に設えられた第5幕「子どもたちのために!」と、第6幕「連中もなかなかやるもんだ」である。動物たちを模した獣毛の塊に角や牙、影絵、皮絵などの展示のほか、動物たちの糞が再現されていたり(匂いはなかったが)、時折、鳴き声が響き渡ったりすることで、動物たちが本当に会議を開いているかのような臨場感にあふれていた。よって動物たちの怒りもひしと伝わるようだった。「まったく、人間どもったら!」と、いまこそ私も声を大にして言いたい。ロシアの侵攻に対し、呆れているのは動物たちだけではない。そのほか大勢の人間たちも同様だ。『動物会議』はいまこそ世界で広く読まれるべき絵本である。と同時に、この絵本に着目した本展に敬意を払いたい。


菱川勢⼀《いざ、動物会議》(2022)



公式サイト:https://play2020.jp/article/the-animals-conference/
エーリヒ・ケストナー原作、イェラ・レープマン原案、ヴァルター・トリアー絵、池田香代子訳『動物会議』(honto本の通販ストア):https://honto.jp/netstore/pd-book_01709939.html

2022/02/25(金)(杉江あこ)

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