artscapeレビュー

2015年01月15日号のレビュー/プレビュー

エスプリ・ディオール──ディオールの世界

会期:2014/10/30~2015/01/04

銀座玉屋ビル[東京都]

東京銀座玉屋ビルでは4フロア全館を会場に、ドレス、香水、アクセサリー、映像、デザイン画やイラスト、資料をとおして、メゾン・ディオールの歴史を振り返る展覧会が開催された。なんといっても展示の中心は、贅と技巧のかぎりをつくしたオートクチュールのドレスの数々である。絢爛豪華な織、刺繍、縫いとり、スパンコール、フリル、チュール、リボン、ドレープ、プリーツなど、その緻密で精確な仕事は間違いなく一級の工芸品といえるだろう。たとえ数十年前に製作されたドレスを近年のドレスと並べでも、その高度な手仕事を集積したモノとしての確かな存在感は少しも古びることはない。装飾的で華やかなスタイルはディオールのドレスの特徴でもある。ディオール・オートクチュールのコンセプトは「フェミニニティの礼賛」だという。終戦直後にニュールックをかかげて華々しく登場したディオール以降、現アート・ディレクターのラフ・シモンズにいたるまで、女性らしいグラマラスなスタイルが着実に継承されてきたことをドレスの展示は物語る。また、本展には従来あまり人目に触れることがない、製作過程のトワルも出品されている。表面の装飾や色彩をのぞいてかたちだけをとりだしたかのような白無地のドレスは、まるで石膏の彫刻のような佇まいで、造形そのもののシンプルな美しさを呈している。そして、一点一点のドレスを誰がどのような場面で着用したのか、そのドレスをいかに解釈するべきか、さらにはドレスをとおしてどのようなイメージをいだくべきかが周辺の展示によって示される。製作当時の記録映像をはじめ、ソフィア・コッポラやウォン・カーウァイら著名な映画監督が手がけたコマーシャル・フィルム、パトリック・ディマルシェリエが撮影した写真集およびメイキング映像など、その仕掛けの規模に大きさにはドレスがたんなる工芸品ではなくあくまでもモードであるということをあらためて思い知らされた。入場無料の本展、大掛かりなウィンドウ・ディスプレイという見方もできるだろう。[平光睦子]

2014/12/28(日)(SYNK)

メトロポリタン歌劇場「アイーダ」

メトロポリタンオペラハウス(リンカーンセンター内)[アメリカ合衆国ニューヨーク市]

ニューヨークへ移動する。朝に出発したのに、時差や飛行機の大幅な遅れで、リンカーンセンターのオペラ「アイーダ」に間一髪で到着する。椅子に座った瞬間に音楽が始まった。高さのある舞台を生かし、垂直方向に展開する舞台美術が、ど迫力。最後は、上下二段に空間をつくり、それぞれに物語が進む。いかにもエジプトらしい太い柱の神殿のイメージも再現している。このスペクタクル感、オリエンタリズム、そして過度なロマンは、映画の前身といえるだろう。

2014/12/29(月)(五十嵐太郎)

「CUBISM THE LEONARD A. LAUDER COLLECTION」展

会期:2014/10/20~2015/02/16

メトロポリタン美術館[アメリカ合衆国ニューヨーク市マンハッタン]

ラウダー・コレクションによるキュビスム展は、ブラックとピカソの二人が、1910年前後に毎年どのように急速に進化したかを並べつつ、グリやレジェの試みも紹介する好企画である。別のセクションでは、ブラックの40年代の室内絵画があり、上から見下ろす折りたたまれた不思議な遠近法だった。続いて、ポロックの6点の絵画を見る。3点はアメリカの抽象画の流れに置かれ、適度に余白を残した「秋のリズム30」が白眉である。残り3点は、彼が師事したベントンの巨大壁画「アメリカ・トゥデイ」(1930~31)をめぐる展覧会に関連して、ポロックの初期作品が紹介されていた。トーマス・シュトルートの特集展示は、1970年代半ばのニューヨークを撮影した初期の作品から、パンテオン、ミラノ大聖堂、天安門広場、タイムズスクエアなどの建築や風景写真までを紹介する。またエル・グレコ展も開催中で、複数の企画展が同時に開催できる巨大美術館ならではの充実した内容である。

2014/12/30(火)(五十嵐太郎)

「ZERO:明日へのカウントダウン、1950-60」展

会期:2014/10/10~2015/01/07

グッゲンハイム美術館[アメリカ合衆国ニューヨーク市マンハッタン]

グッゲンハイム美術館のZERO展が思いがけず、素晴らしい。1950-60年代にドイツ、オランダ、ベルギー、イタリアのアーティストらが展開した、戦後の新しい出発としての芸術運動ゼロに焦点をあてたものだ。2013年にグッゲンハイムで同時代の具体美術展を開催していたが、20世紀の再考シリーズである。ゼロ展は、デュッセルドルフから始まった歴史、展覧会の再現、雑誌、映像、キネティック、振動や揺らぎによる視覚効果、火や煙で描く絵画、ニューマティックへの関心、光の操作などを紹介し、なるほど、その先駆性が確認できる。展覧会に参加したイヴ・クラインは、本当に才能があったのだと改めて感心させられる。

2014/12/30(火)(五十嵐太郎)

メトロポリタン歌劇場「椿姫」

メトロポリタンオペラハウス(リンカーンセンター内)[アメリカ合衆国ニューヨーク市]

メトロポリタン歌劇場のオペラ「椿姫」は、とてもモダンな演出だった。華やかな館で着飾った男女が入り乱れるのではなく、壁が弧を描き、床が斜めに傾いた白い抽象的な空間にソファだけを置く。赤い服のヴィオレッタ一人に対し、何十名ものスーツ姿の男たちが登場する。むしろ、マリリン・モンローの「紳士は金髪がお好き」のシーンを彷彿させる。

2014/12/30(火)(五十嵐太郎)

2015年01月15日号の
artscapeレビュー