artscapeレビュー
野口久光──シネマ・グラフィックス展
2011年07月01日号
会期:2011/06/04~2011/07/31
西宮市大谷記念美術館[兵庫県]
映画は不思議なものだ。観客は映画そのものの表現やストーリーだけでなく、俳優のイメージ、背景となる風景、衣装、台詞や音楽、ときには映画を一緒に観た人やその日の出来事に至るまで、じつにさまざまな外的要素を絡み合わせながら、映画を記憶する。映画ポスターもまた、そうした映画にさらなる魅力を加える、外的要素のひとつであろう。本展は野口久光(1909-1994)が手がけた、1930年代から1960年代のヨーロッパ映画のポスターを中心に、ポスター原画、プログラム表紙、映画雑誌の表紙絵など、約220点余を紹介するもの。野口は戦前後における日本のジャズ・ミュージカル・映画評論の第一人者として知られるが、『望郷』『天井桟敷の人々』『禁じられた遊び』『第三の男』『大人は判ってくれない』など、1,000作品を超える映画ポスターを描いた、グラフィック・デザイナーでもある。彼は東京美術学校(現東京藝術大学)で学んだ確かな技量と感覚をもとに、映画に対する深い理解と愛情をもって映画ポスターを描き続け、とくに独特の書き文字レタリングは戦後のグラフィック・デザイナーたちに大きな影響を与えた。これまで評価されることの少なかった野口久光の仕事を振り返るという意味では十分評価に値する展覧会だが、似通った印象の作品が一律に並べられていて、最後の展示室に入ったときにはもう飽きてしまった。展示の仕方に少し工夫してほしかったと思ったのは、私だけだろか。[金相美]
2011/06/17(金)(SYNK)