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レイモン・サヴィニャック展──41歳、「牛乳石鹸モンサヴォン」のポスターで生まれた巨匠

2011年07月01日号

会期:2011/06/06~2011/06/28

ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]

サヴィニャックの描くポスターは人々に強い印象を与える。余計な言葉はない。詳しい説明を読む必要もない。一目みただけで、メッセージが伝わってくる。豚、牛、羊、毛糸、ゴムタイヤといった描かれたものそのものが、私たちに直接語りかけてくる。広告としての手法がすばらしいのはもちろんのこと、ヴィジュアルを中心とした表現は、もともとの文脈から切り離されても絵画作品として成立する。それゆえに、サヴィニャックの作品はいまでも多くの人々を魅了し続けているのだ。もちろん、彼は広告をつくっていたのであって、絵を描いていたわけではない。彼はポスターの出来をほめられるよりも、掲出後に商品の売り上げが伸びたことを聞くことのほうを喜んだという。また、彼はアメリカ的な広告制作の分業体制を嫌っており、すべてを自らの手で仕上げることを好んでいた。サヴィニャックがイラストレーターではなく、画家でもなく、ポスター作家と呼ばれる所以である。今回の企画にも協力しているサヴィニャック作品のコレクター山下純弘氏は、サヴィニャックは画家、デザイナー、アイデアマン、職人、ビジネスマンという多様な側面を併せ持った人物であったと語っている。
ところで、サヴィニャックの表現からは、商品を他社のものと差別化しようとする意図はあまり感じられない。彼のビジュアルはメーカーにかかわらず適用可能なものも多い。ランクハムやマギーブイヨンのためのポスターなど、メーカー名やブランド名を他社のものに入れ替えてもそのまま通用するに違いない。実際、ポスター作家として人気が出る前、彼は作品が採用されるまで同じポスターを持って複数の企業に売り込みに歩いていたし、コカ・コーラのために描いたポスターは手直しをしてペリエのポスターになり、トブラー・チョコレートのためのポスターはロゴを消して森永チョコレートのポスターになった。それにもかかわらず、わたしたちはサヴィニャックのポスターを、特定の企業、特定のブランドと結びつけて覚えている。企業やブランドの名前が画面に入っているから、という理由だけでは説明できないインパクト──彼の手法は「ビジュアル・スキャンダル」と呼ばれる──が、彼のポスターにはある。[新川徳彦]

2011/06/15(水)(SYNK)

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