artscapeレビュー
杉本博司 趣味と芸術 ─味占郷展
2016年07月01日号
会期:2016/04/16~2016/06/19
細見美術館[京都府]
『婦人画報』では「謎の割烹 味占郷」と題した連載が2013年9月より始まった。著者である「謎の割烹店亭主」が、著名人をゲストにむかえ、その人にあう料理とその席にあう古美術のコレクションでもてなす、という趣向。その中から、本展では3会場に25の床のしつらえが展示された。本展は、昨年、千葉市美術館で開催された展覧会の一部である。
魯山人か湯木貞一か、“趣味と芸術が重なるもてなしの場”という極まった想定からはそんな名前が連想される。しかし、ゲストも料理も存在しない展覧会では、写真家、古美術商、現代美術家という杉本博司(1948 -)の特異な経歴が浮き彫りにされる。本展で示されているのは杉本の趣味人としての見立てといってもよかろうが、それは古美術商としての見識であり、美術家としての美意識でもあるように思われる。例えば《つわものどもが夢のあと》では、軸装された平安時代の装飾法華経の前に南北朝時代の阿古陀形兜がひっくり返しておかれた。兜に生えた夏草は須田悦弘(1969 -)の彫刻だ。信じる者は救われると説く法華経と、戦乱の末の死と荒廃、さらにその上に栄華の儚さを偲ぶ句をのせる。それぞれの要素が精巧に組み上げられて、観る人のなかにはひとつのイメージが描きだされる。《時代という嵐》では、栗林中将司令官の洞窟で発見されたという硫黄島地図保管用鞄と硫黄島地図が展示された。意味ありげに一部が黒く塗り潰された地図は軸装されており、そこに用いられた菊桐紋の織模様が時代感を表現する。
宴席に招かれた客とまではいかないが、展示空間としては比較的小規模な本館ではじっくりと静かにその場を味わうことができる。[平光睦子]
2016/06/19(日)(SYNK)