artscapeレビュー

中島千波とおもちゃシリーズ 画家のひみつ

2016年07月01日号

会期:2016/05/31~2016/07/10

渋谷区立松濤美術館[東京都]

現代日本画壇事情には疎いが、それでも中島千波といえば桜の絵を代表とする花鳥、人物、風景の画家として著名であることは知っている。多岐にわたる制作活動の中で、中島千波が生涯描き続けたいと語っているのが、本展で特集されている「おもちゃシリーズ」だ。描かれているのは「おもちゃ」といってもトイではなくて、陶製や木製の動物たちの置物──いわゆる民芸品で、メキシコの陶製・木製の動物をはじめてとして、ペルーやフランス、ベルギー、インド、日本など、産地はさまざま。「おもちゃシリーズ」では、だいたい前景にいくつかのおもちゃと花が組み合わされ、背景に窓が描かれている。最初におもちゃを描いた作品は1972年の《桜んぼと鳩》(本展には出品されていない)。そこにはその後のシリーズの原型がすでにある。銅版画家・浜口陽三のサクランボの作品のようなものを日本画にしたらどうなのだろうというところから始まったという。窓は「結界」で、デュシャンやマグリットの影響。初期の作品に描かれている窓の外にただよう雲や、割れたワイングラスや壊れたテーブルの脚は社会の不安を表し、平和の象徴である鳩と対比している。しかし、近年描いているおもちゃシリーズはメルヘンの世界だという。じっさい出展作品の大部分は純粋に楽しく見ることができるものばかりだ。地階展示室は、主に2008年に高島屋美術部創設100年を記念して開催された展覧会のために描かれたもの。2階展示室は、初期作品と近年の作品とが並ぶ。これは本人が語っていたことだが、おもちゃシリーズは売れないのだそうだ。これは意外だった。やはり桜の画家としてのイメージが強いのだろうか。2008年の展覧会出品作品は大部分が手元に戻ってきて、半分は自宅に、半分はおぶせミュージアム・中島千波館(長野県)に寄贈し、それゆえ今回まとまって出品することができたのだという。
本展では、おもちゃシリーズの作品とモチーフになったおもちゃ、花のデッサンが合わせて展示されている。とくに地階展示室ではおもちゃが露出展示されており、ディテールを間近で見ることができる。花はそれぞれの旬にデッサン、着彩されたもの。どの作品に用いるかは関係なく描きためられたもののなかからモチーフが選ばれるという。おもちゃはほとんどの場合デッサンを経ることなく、実物を見ながら直接描いているとのこと。作品と見比べると、色や模様はデフォルメされることもあるようだ。このようにふだん見ることができない創作のプロセスを見せているがゆえに、展覧会のサブタイトルは「画家のひみつ」なのだ。
モチーフに用いられたおもちゃのなかでも、メキシコ・トナラの陶製の動物、オアハカの木製の動物たちはとても魅力的。画のモチーフになったもの以外にも画家はたくさんのおもちゃを所有しているそう。いつの日か、中島千波コレクション展を見てみたい。[新川徳彦]


展示風景

★──中島千波『おもちゃ図鑑』(求龍堂、2014)8~9頁

2016/06/02(木)(SYNK)

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