artscapeレビュー
Chim↑Pom 「また明日も観てくれるかな?」
2016年12月01日号
会期:2016/10/15~2016/10/31
歌舞伎町振興組合ビル[東京都]
昨今「地域アート」という言葉が躍っている。ただいろいろ見ていくと、都市型の芸術祭と過疎地型のそれでは様子が違う。都市型の特徴は過疎地型のように開催する土地への振り返りに乏しく、その代わりに国際性を謳いがちで、テーマは外から持ち込まれる。するとそれは、規模が大きいだけで一般の美術展とさほど変わらなくなる。過疎地型は最初から自分たちの「過疎」というネガティヴな問題を隠そうとはしない。けれども、都市型の場合、問題はいくつもあるのだろうが、内側の問題を開くよりも外から持ち込んだテーマでそれを覆ってしまいがちだ。それは、単にキュレーターや作家の想像力の欠如を指摘して済むものではなく、フェスティバル主催者である地域行政の思惑などが絡まり合った結果であり、それゆえに、その場のポテンシャルが十分引き出されぬまま、淡く虚ろな鑑賞体験しか残さない、という事態が起こる。けれども、都市には過疎地とは異なる見どころやパワーが潜んでいるはず。Chim↑Pomは活動の最初期からずっとそのパワーと向き合ってきた。本展は、歌舞伎町振興組合ビルを展示会場かつ展示作品とするプロジェクトで、オールナイトのイベントが2夜実施された。一種の「家プロジェクト」だけれど、都市型らしい騒々しさがあり、イベントでは窓を開け放して爆音で音楽を鳴らしたりしたそうだが、近くの交番からの中止要請はなかったそうだ。そもそも悪い場所だから、これくらいの悪さは悪さに入らない? そう考えると、あちこちでいかがわしく淫らなことが行われているとしても、つまらない干渉を互いにしないし、だからみなが個性的に街を闊歩している歌舞伎町は、日本には珍しく国際的な雰囲気を漂わせた寛容な世界なのだ。Chim↑Pomはそこで、五階建てのビルの各階の床を2メートル四方ほどくり抜き、吹き抜けを施すという乱暴さを発揮する。《性欲電気変換装置エロキテル5号機》、《SUPER RAT-Diorama Shinjuku-》など初期作品の発展型となる展示もあり、吹き抜けに映写される《BLACK OF DEATH》含め、Chim↑Pomはずっと都市のパワーと付き合ってきたんだよな、と再確認させられる。これは紛れもない地域アートであるはずだ。しかし、これはいわゆる「地域アート」ではない。「地域アート」では行政による介入は不可避であり、その結果、できないことばかりが増えていく。ぼくたちはそうやって自分たちの首を絞めている。Chim↑Pomが巧みなのは地域の当事者と直に接触するところで、そうすると通らないのものも通ってしまう。たまたま歌舞伎町振興組合の組合長と卯城竜太がカメラ越しにトークしている場面に出くわした。都市型芸術祭には、こういう当事者との直接的な接触があるようでないのだ。その場は、善悪を決めつけずに相手と付き合う歌舞伎町的流儀の話で盛り上がった。なるほど「善悪を決めつけない」場というものこそ、アートの場ではないか。
公式サイト:http://chimpomparty.com/
2016/10/26(水)(木村覚)