artscapeレビュー
東京造形大学創立50周年記念展「勝見勝 桑澤洋子 佐藤忠良 ─教育の源流」
2016年12月01日号
会期:2016/10/31~2016/11/26
東京造形大学付属美術館[東京都]
東京造形大学創立時の教育活動に尽力した3人の人物──評論家・勝見勝(1909-1983)、創立者・桑澤洋子(1910-1977)、彫刻家・佐藤忠良(1912-2011)──の理念に焦点を当てた展覧会。1966年の大学開学時、勝見勝はデザイン科長、桑澤洋子は学長、佐藤忠良は美術科長。3人はいずれも50代半ば。勝見も佐藤も1954年の桑沢デザイン研究所の創立に参加して教員を務め、大学開学時の教育方針や教育内容の策定に中心的な役割を果たしている。その教育方針、教育内容とはどのようなものであったのか。本展を企画した藤井匡・東京造形大学准教授は、ともに30代半ばで終戦を迎えた3人は、いずれも民主主義の思想に基づいた新しい社会をつくるためにそれぞれの専門分野で積極的な活動を行なったことを指摘する。勝見はデザインによって人々の生活を豊かにするために、書籍の翻訳・出版、専門誌の刊行、学会の設立、展覧会の企画など、多面的な活動を行なった。桑澤は服飾デザインの他に、文筆・講演活動、教育活動を通じて女性の社会的地位の向上を目指した。佐藤は1950年代に労働者を彫刻のモデルに取り上げるなど、新しいリアリズムのありかたを模索していった。展示では終戦後から大学開学にいたるまでの3人の思想と活動を5つの章に分け、作品、スケッチ、原稿、書籍などが出展された。しかしながら、ここまでであれば、それは桑沢デザイン研究所の歴史と言い換えてもおかしくない。はたして大学開学後に彼らの思想はどのように実践されたのか。ZOKEIギャラリーでは、50年間に刊行された印刷物でその歴史を辿る企画「東京造形大学ドキュメント1966-2016」展が開かれていたが、大学史の展覧会としては十分とはいいがたい。今後、資料の収集と調査・研究が進み、東京造形大学における教育活動の歴史が書籍のかたちにまとまることを期待したい。[新川徳彦]
2016/11/14(月)(SYNK)