artscapeレビュー
グラフィックトライアル2017 Fusion
2017年10月01日号
会期:2017/07/01~2017/09/18
印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]
印刷表現とグラフィックデザインの可能性を追求するグラフィックトライアル。第12回目の今回は「Fusion:統合、融合」をテーマに、仲条正義、ジャンピン・ヘ、吉田ユニ、澤田翔平ら4名のクリエイターとプリンティング・ディレクターたちの協業によるトライアルが行なわれた。仲条正義のトライアルは「ネコフュージョン」。飼い猫の写真を切り抜き、背景イメージと融合させることで、幻想的な世界を旅する猫のポスターをつくっている。ジャンピン・ヘのトライアル「f.u.s.i.o.n」は、著名デザイナー10名のポートレートをスクリーンで処理し、1枚に2人ずつ重ね合わせたもの。その過程では、異なる用紙で同じ色味を再現する試みや、印刷表現による箔押しの再現、和紙への印刷にUVインキを乗せることで発色をよくする試みが行なわれ、技法による効果の違いが展示で示されている。吉田ユニのトライアルは「Scratching」は擦ると剥がれるスクラッチ印刷。剥がすという人の手が加わって完結するという点が「Fusion」。面白いのは剥がしたもの、削りかすも含めて作品となっていることだ。たとえば焼き魚のスクラッチを剥がしていくと、下から骨が現れる。周囲に散った削りかすは魚の皮に見立てられる。印刷されたバナナは、皮がシート状にペロリと剥けて中身が現れる。オフセット印刷にスクリーン印刷とインクジェット印刷の組み合わせ。技術と表現が見事に融合している。澤田翔平のトライアルは、ラテン語で灰色を意味する「RAVUS」。写真を素材に多様な印刷、インキ、紙の組み合わせによって、多彩なグレーの諧調表現を試みている。これらのトライアルを見れば分かるように、昨年の第11回からこれまでのオフセット印刷に、スクリーン印刷やインクジェット印刷などの技法が加わったことで、表現の幅、可能性が大きく広がっている。[新川徳彦]
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