artscapeレビュー

シンポジウム「ダンス動画、SNSでどうバズってるの?」

2017年10月01日号

会期:2017/09/18

KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ[神奈川県]

筆者が司会進行を務めたイベントなので、手前味噌ではあるのだが、今後の舞台芸術を考える上で重要な議論があったことは事実であり、ここに筆者の見解を述べておきたい。ゲストは二人、ダンス動画を含む動画制作を請け負うCrevo株式会社の工藤駿氏、ストリートダンスを用いたCMやPVの制作や大学のダンスサークルのイベントなどを手がけている株式会社Vintom代表取締役の愛甲準氏。芸術とは異なる分野、とくにマーケティングや広告という分野で活躍している二人を招いた本イベントは、KAATが主催ということを鑑みれば「異例」とも言える場となった。二人に共通している見解はこうだ。ダンス動画には「参加(真似る)型」と「見て楽しむ型」があり、後者よりも前者の方が注目され(バズられ)やすく、流通しやすいということ。なるほど「ダンス動画」の世界を思い返せば当然の傾向とも言えるのだが、しかし、ダンスをこの二つに分ける思考は、舞台芸術の分野からすれば、とても新鮮に映る。舞台芸術が推し進めているのは、ほとんどが「見て楽しむ」ダンスである。作家性が高く、エリートダンサーでなければ踊れない「見て楽しむ」型のダンスは、技巧や芸術性は高いかもしれないが、ダンスを「参加(真似る)」対象と捉え愛好する多くの人々にとっては、魅力に乏しいというわけだ。舞台芸術の世界は、こうした人々を無視し、芸術性こそ正義とでも言いそうなスタンスを崩さずに来た。結果として、ダンスの分野は、創作者も観客も増えず、痩せ細るばかりとなっている。しかし、これと同じような悩みは、ストリート系のダンスの世界も抱えているのだと愛甲氏は述べる。確かに踊りたい人口は増え、ストリートダンスへ向けた世間の注目は増している、とはいえ、その動向を牽引するはずのプロ的なダンサーへの注目やリスペクトは十分に高まっていないというのだ。「プロ的」と書いたが、実際はダンスを職業とするのは難しく、ほとんどはダンス講師など副業を持ち、専業とは言い難い。いかにすれば「参加型」のダンス愛好者が「見て楽しむ型」にも興味を持ってくれるのか、その結果としてダンサーという職業が社会に定着するのか。愛甲氏は、どんなやり方でも構わないので、まずダンサーが絶対的な人気を獲得すること、その人気を通して、高度なダンスについての関心を高めていく、といった戦略を話してくれた。工藤氏からは、すでに「人気の何か」との類比や、言葉を用いたわかりやすい解説など、ダンスの見方を与える努力がもっと必要なのではないかとの意見が出た。どちらもとても基本的だが、怠りがちな視点である。いずれにしても、観客の創造という視点からダンスを創作したり制作したりするという努力が求められる、ということなのだろう。耳の痛い話だし、人気のためにダンスの質を変えたくないなど、創作や制作の側から反発も起きるだろう。とはいえ、助成金や税金を当てにしない彼らのシビアな視点から、舞台芸術の盲点を検証してもらうこのような企画は、継続的に行なわれるべきである。「参加(真似る)型」のダンス愛好者を巻き込む方法を発明したとき、「みそっかす」状態の(コンテンポラリー)ダンスは社会の一部になれるのかもしれないのだから。

2017/09/18(月)(木村覚)

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