artscapeレビュー
マンチェスター市立美術館
2017年10月01日号
Manchester Art Gallery[イギリス]
産業革命の中心地となった、工業都市のマンチェスター。マンチェスター市立美術館は、シティセンターに偏在する歴史的建築群のなかでも、その威容を誇っている。3棟が連結された建築の主要部は、1823年にチャールズ・バリー卿によって建設されたもの。また同美術館は、とくにラファエル前派のコレクションで知られる。ラファエル前派のメンバーたちと交友関係にあったフォード・マドックス・ブラウンの絵画作品《労働》(1852-1865年)は、その白眉ともいえよう。地方都市に、なぜ19世紀当時の前衛アートが収集されたのか興味深いところであろう。実は同時代美術のパトロンには、中産階級の工場主や製造業者、産業資本家たちが多かった。彼らは、マンチェスターの綿織物に必要なデザインと色彩の美的感覚と趣味を向上させるために、芸術振興にも熱心だったのだ。館内には、ヴィクトリア時代の装飾芸術コレクションもたくさんある。モリス商会やアーツ&クラフツの室内装飾品、唯美主義運動の家具など。筆者が訪れた折には、「南アジアのデザイン」と題された企画展が開催されていた。インド、スリランカやパキスタンの伝統的な工芸品と現代の工業製品が展示され、やはりここでも19世紀に収集されたインドの手仕事による高品質なテキスタイルが際立っていた。[竹内有子]
2017/09/02(土)(SYNK)