artscapeレビュー
東京造形大学 山手線グラフィック展
2018年03月01日号
会期:2018/02/17~2018/02/28
山手線E231系 ADトレイン1編成[東京都]
2018年2月17日〜28日の12日間、JR東日本の山手線で一風変わった1編成のADトレインが走った。それが本展である。通常、ADトレインというと、一目でそれとわかる派手派手しい車体広告や、全車両においてほぼ同じグラフィックの壁面と中吊り広告で埋め尽くされることが多い。ところがこれはADトレインを利用しているものの、趣旨は展覧会。電車が“走るギャラリー”と化した。
本展には、東京造形大学造形学部デザイン学科グラフィックデザイン専攻領域の学生たちによる「TOKYO」をテーマにしたグラフィック作品と映像作品約300点が展示された。前日には内覧会が開かれ、団体貸切で山手線を一周した。まず車体は控えめで「山手線、お借りします。東京造形大学」などのコピーが入ったプレーンなデザインのロゴマークが貼られているのみである。車内に入ると、窓上と窓横の壁面、中吊りをフル活用して、グラフィック作品が展示されていた。さらにドア上のモニターには映像作品が流れている。東京タワー、渋谷のスクランブル交差点、都心のビル群、夜景、雑踏、寿司などをモチーフに、写真やイラストレーション、タイポグラフィなどを活用したさまざまな表現が見られた。
約300点の作品展示と聞いて身構えたが、なんだか拍子抜けするほど、第一印象は「いつもの電車と違和感がない」だった。それは規定の広告スペースで、普段目にしている広告と同じ印刷物や映像といったメディアを展示する試みだったからかもしれない。これがギャラリーに展示されていれば作品としてとらえられるが、電車に展示されていれば広告としてとらえてしまう、人間の習性によるものだろう。あくまでも乗客は作品を観るために電車に乗るわけではない。たまたま乗った電車がADトレインだったという巡り合わせによるので、作品に無関心であることが前提だ。そうしたシビアな条件下で、人の心をいかに動かせるかというのが、おそらく学生たちに与えられた課題だろう。本展ポスターのコピーのひとつに「作品を世に出すプレッシャーは、大学では教えられない。」とあり、まさにと思った。山手線という非常に多くの人々の目に曝される場で、学生たちの作品がどう位置づけられるのかが試される展覧会だった。
公式ページ:http://www.zokei.ac.jp/news/2018/7994/
2018/02/16(杉江あこ)