artscapeレビュー

亜細亜の骨×亜戯亜 共同企画『同棲時間 The Brotherhood』

2018年09月01日号

会期:2018/08/02~2018/08/05

シアターモリエール[東京都]

散らかった部屋を片づけるひとりの男。そこへスーツを着た男がやってくる。どうやら二人は兄弟らしい。と、弟が兄に強引にキスをする。弟は関係を続けようと迫り、兄はこんな関係は普通じゃないとそれを拒もうとするが、結局はずるずると身を任せてしまう──。

本作は、アジアの演劇交流を目的とする日本の団体「亜細亜の骨」と台湾の劇団「亜戯亜」との共同企画だ。台湾の気鋭の劇作家・林孟寰(リン・モンホワン)が描くのは兄弟間での同性愛。腹違いの二人は互いの存在を知らないままに日本と台湾でそれぞれ過ごし、兄弟と気づかずに関係を持ってしまう。父の葬式で思いがけず顔を合わせた二人は、そこで初めて真実を知る。日本人になろうとしてなりきれず、台湾に戻った兄弟の父と、日本に妻子を持ちながら台湾の男と関係を持ってしまう兄。兄弟の関係に日本と台湾との関係が影を落とす設定が巧い。遺品が片づけられていくにつれて語られる兄弟と父の過去。部屋が片づいたそのとき、二人は歩む道を決めることになる。

LGBTを扱った作品としてもさまざまなことを考えさせられる。たとえば作中には、女性への性転換手術を受けている最中のサルサという人物が登場する。サルサと弟は互いに惹かれ合うが、ゲイの弟はサルサが性転換することを望まない。二人の心はすれ違い、「変わらなくていい」という弟の言葉がサルサを揺さぶる。

この作品が娯楽作品としてよくできていることは極めて重要だ。禁断の愛と三角関係。ベタベタのメロドラマ。サルサと弟との間にある複雑さでさえ、メロドラマをメロドラマたらしめるために機能している。しかしだからこそ観客はお勉強としてではなく登場人物たちに興味を持つことができる。固定観念を問い直すことは芸術の重要な役割だが、端から観客に拒絶されてしまうのでは意味がない。LGBTを扱うにせよ国際関係を扱うにせよ、このレベルの娯楽作品が増えることはより多くの人の興味関心を呼ぶことにつながるだろう。

[写真:横田敦史]

公式ページ:https://2018asianrib.stage.corich.jp/
林孟寰インタビュー:https://courrier.jp/news/archives/129459/

2018/08/04(山﨑健太)

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