2019年04月15日号
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artscapeレビュー

第751回デザインギャラリー1953企画展「鈴木康広 近所の地球 旅の道具」

2019年02月01日号

会期:2019/01/23~2019/02/17

松屋銀座7階デザインギャラリー1953[東京都]

アーティストの鈴木康広は周囲の人々にとても愛されている人ではないかと思う。私も鈴木に何度か会ったり取材をしたりしたことがあるが、彼はいつも目をキラキラと輝かせて熱く語ることが多く、子どものように純粋な人という印象を受けた。鈴木は作品を構想するときに、いつもノートにペンでスケッチを描き溜める。そのスケッチが何とも素朴でありながら、しかしそこに「鈴木ワールド」とでも言うべく別次元の宇宙が果てしなく広がっている。そのスケッチ群を壁面いっぱいに展開した本展は、まさに「鈴木ワールド」を堪能できる内容であった。

鈴木は日常の風景や現象を独自の視点で観察し、それを「見立て」によってとらえ直し、作品へ昇華させることで知られている。代表作のひとつ《ファスナーの船》は船をファスナーに見立てた作品だ。「海を進む船と航跡がファスナーのように見えた」という、子どものように純粋な視点が作品を生むきっかけとなった。すごいのは、そんな気づきだけに終わらせず、本気で船をつくってしまったことである。まずはラジコン式の小さな船を公園の池で走らせ、次に「瀬戸内国際芸術祭」で人が乗れる船を海に走らせた。もうひとつ《りんごのけん玉》は、けん玉の赤い玉をりんごに見立てた作品だ。けん玉は地球の引力を利用した遊びである。つまりこれを「ニュートンが木からりんごが落ちるのを見て万有引力の法則を発見した」というエピソードに見立てたのだ。鈴木は中学生の頃に担任教師の勧めで始めて以来、けん玉に対しては並々ならぬ思い入れがあるようだ。

そうした鈴木の過去20年分のさまざまな作品が実物とスケッチと映像で紹介されていた。鈴木の発想の原点であるスケッチを観ていると、思わずクスッと笑ってしまうものが多い。鈴木の見立ては、まったく別物の何かと何かとに共通性を見出す心である。それは既成概念にとらわれない、子どものように純粋無垢な心でなければ得られない。案外と深いなと思ったのが、「現在/過去」という判子である。天面に「現在」と書かれた判子を捺すと、紙に写るのは「過去」という文字である。現在であったはずの時間は、判子を捺した瞬間に、すでに過去となっている。そんな当たり前の時間の概念についても、まるで子どもに率直な質問を投げかけられたときのように、ハッと考えさせられるのである。

展示風景 松屋銀座7階デザインギャラリー1953[撮影:ナカサアンドパートナーズ]

公式サイト:http://designcommittee.jp/2019/01/20190123.html

2019/01/31(杉江あこ)

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