artscapeレビュー
《サンタ・マリア・デッラ・パーチェ聖堂》
2019年02月01日号
[イタリア、ローマ]
《サンタ・マリア・デッラ・パーチェ聖堂》は、いつも外側だけ眺めて帰っていたが、今回はタイミングがよく、初めて内部に入ることができた。聖堂内は凱旋門のモチーフを反復している。またラファエロの絵画も飾られている。もっとも、ここでのお目当てはブラマンテが手がけた中庭だ。オーダーの縦積みと、横の並びのリズムが心地よい。イオニア式の柱頭の平面的な表現を含めて、バロックとは違う簡素な美を表現している。やはり、ブラマンテが関わったローマの《パラッツォ・デラ・カンチェレリア》も、端正なプロポーションの中庭をもつ。古典主義の操作を複雑化せず、縁取りによって反復される半円の形を美しく見せるデザインだ。フィレンツェの品がいいルネサンス建築を想起する。ただし、付設のレオナルド・ダ・ヴィンチ博物館は、入場しても地下しか見ることができない。展示も彼が発明した機械の木造模型が並ぶだけで、あまり工夫がない。
さて、《サンタ・マリア・デッラ・パーチェ聖堂》の中庭を囲む1階と2階では、思いがけず、現代美術の「DREAM」展を開催していた。まずジャウメ・プレンサが中庭全体を使うインスタレーションを展開し、室内に入るとジェームズ・タレル、アンゼルム・キーファー、クリスチャン・ボルタンスキーの大御所に混じって、日本からは池田亮司や田根剛らも参加している。ただ、池田の高解像度の映像を小さな部屋で投影しても十分な効果が出せないように、企画側があまりうまく古建築の空間を使いこなせていないのが気になった。とはいえ、この展示のおかげで堂々と室内に入り、回廊の2階も歩くことができたのはありがたい。出口になっている2階のショップはいまいちだったが、カフェを併設しており、異なる視点の高さからブラマンテによる中庭の空間を鑑賞できる。全体としてはちぐはぐだが、ルネサンスの建築をいまも活用しているのだ。
2019/01/03(木)(五十嵐太郎)