artscapeレビュー
川口和之「PROSPECTS Vol.3」
2019年02月01日号
会期:2019/01/13~2019/01/30
川口和之のphotographers’ galleryでの「PROSPECTS」シリーズの展示も、今回で3回目になる。以前は地元の兵庫、岡山などの写真が中心だったのだが、それ以後、撮影範囲が大きく広がり、青森県から福岡県に至るさまざまな場所の写真が展示されていた。
といっても、制作の姿勢やスタイルそのものにはほとんど変化がなく、やや寂れた商店街などの眺めを、できる限り克明に、細部の質感描写に気を配って撮影している。だが、そのリアリティがただ事ではなく、写真を見ているとあたかも自分が実際にその景色の前にいて、川口とともに、歯抜けになって滅びの気配を色濃く漂わせている街並みを眺めているように感じてしまう。撮影のポジション、プリントの色味、明度、彩度などの選択がじつに的確で、揺るぎがないからだろう。あと四半世紀ほど過ぎれば、この「PROSPECTS」のシリーズに記録された光景のほとんどは失われてしまうわけで、川口はそれを見越して作業のペースをあげているのではないだろうか。
photographers’ galleryに隣接するKULA PHOTO GALLERYでは、「PROSPECTS Early Works」展が同時開催されていた。そこに並ぶ、1976~79年に姫路、大阪などで撮影されたモノクロームの初期作品の、ハイコントラスト・フィルムを特殊現像して、街のディテールを注意深く定着した写真のたたずまいは、現在の川口の仕事にそのまま繋がっている。40年以上にわたって続けてきた、彼の街の観察と記録の作業が、ようやく厚みのある写真群として形をとりつつあるということだろう。
2019/01/26(土)(飯沢耕太郎)