artscapeレビュー
雨ニモマケズ(singing in the rain)
2019年03月15日号
会期:2019/03/01~2019/03/24
BankART Station+R16 Studio[神奈川県]
BankARTの新しい拠点、みなとみらい線の新高島駅に直結する「Station」と、国道16号線沿いの東横線の廃線跡をスタジオに再利用した「R16」。この2カ所をつなぐ展覧会が「雨ニモマケズ」だ。なんでこんなタイトルかというと、行けばわかるが、R16は高架下の吹きっさらしの場所で、雨にも風にも冬の寒さにも負けそうになるハードな空間なのだ。ちなみに英語タイトルは "singing in the rain" と、なぜか明るい。
まずR16のほうは、土屋信子、渡辺篤、金子未弥、マツダホームらここをベースとする作家を中心に作品を公開。そのためオープンスタジオ的な普段着の展示だ。その点、Stationのほうは外からアーティストを招いている上、空間が大きく密閉されているせいか、気合いが入った見ごたえのある作品が多い。その両方に出しているのが小田原のどかで、長崎の爆心地に立てられた矢形の標柱をネオンで再現したもの。爆心地に記念碑を建てるという発想はだれでもするが、まさか矢印を立てるとは! グーグルマップじゃあるまいし。小田原はこの爆心地と記念碑(彫刻)を巡って『↓(2019)』という小冊子も出しているので、一読を勧めたい。Stationのほうの作品はいちばん奥まった倉庫のような暗い空間にポツンと立っているので効果的だ。
山下拓也は、高さ2メートルほどもあるマンガのキャラクターみたいな版画を対にして10体くらい立てている。巨大なケヤキの切り株を輪切りにした衝立を版木にして、表裏に彫って刷っているのだ。ダイナミックな版表現と、描かれたひょうきんなキャラとのギャップがすばらしい。西原尚は2枚の薄い金属板を帆のように張った車を前後に行き来させ、金属板の奏でるホワンホワンという音を聞く作品。無用の装置と無用の音が周囲を脱力させる。村田峰紀は、ウィーンウィーンとつぶやきながら仮設壁にボールペンでぐりぐり穴が開くまで引っ掻き、そのまま線を引きながら裏に回って同じように引っ掻くパフォーマンスを披露。その痕跡を見るだけでも、彼が優れた造形センスを有するアーティストであることがわかる。
「Station」はその名のとおり駅に隣接する、というより駅に付随する空間なので制約も多いが、逆に可能性も高い。通行人を呼び込んだり、近隣企業を巻き込んだり、ここだけでなく別の駅とつないだ企画展も考えられるだろう。消滅したBankARTスタジオNYK以上の活動も期待できるぞ。つーか、期待してね。
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