artscapeレビュー
あいちトリエンナーレ2019 情の時代(開催7日目)
2019年09月15日号
会期:2019/08/01~2019/10/14
愛知県芸術文化センター+四間道・円頓寺+名古屋市美術館ほか[愛知県][愛知県]
4回目の愛知県芸術文化センターでは、「表現の不自由展・その後」の中止に抗議し、韓国の作家2名の部屋が閉鎖され(いずれも北朝鮮を扱う作品)、さらにもぎとられたようで痛々しい。とはいえ、何度か通っても、映像の作品が長いので、まだ全部を見ることができないくらいのヴォリュームがある。
10階の田中功起の作品は、大きな展示室に批評的に介入する空間インスタレーションも興味深いが、鑑賞するのにかなり時間がかかる映像が素晴らしい。今回のトリエンナーレでは、家族や移民など、アイデンティティをめぐる作品が多いが、これも日本に暮らす混血・多国籍のメンバーが互いの記憶や経験を語りあいながら、共同作業によって抽象画を描く試みである。あからさまなプロパガンダではない。しかし、確実に、いま起きている事態への静かな抵抗にもなっている。
この日は、展示室からも怒号が聞こえ、後で出入口に行ったら、バケツで水をまいていた人がとりおさえられていた。津田監督のトークイベントも当面は中止か、延期になっており、事態が落ち着き、今回の件をじっくりと説明・議論できる場が設けられ、再開への道を探ることを期待したい。そもそも「不自由展」が展覧会の中のミニ展覧会であり、さまざまな作品の共通点は、過去に排除されたことがあることだけだ(例えば、Chim↑Pom(チンポム)は「福島」や「放射能」の言葉が入っているだけでNGに)。そうした基本的な情報すら理解されず、少女像や天皇の肖像を用いた作品の背景も、まったく理解されていない。芸術の政治利用と批判されているが、作品の一部だけを切り取り、もはや政治が芸術を利用している状態である。しかもメディアが政局化を煽るという最悪のパターンだ。
今回のトリエンナーレはオペラをやめて、ポピュラー音楽にシフトしたが、その目玉となるのが、サカナクションの『暗闇 -KURAYAMI-』である。タイトル通り、ホールの照明をすべて消し、ライブを行なうものだ。かつてゲーテが音楽を鑑賞する際、演奏者の姿が邪魔になると述べたこと、また大きな壁でメンバーが隠されたピンク・フロイドの『ザ・ウォール』のライブなどを想起させる。なるほど、これだけの大空間が本当の闇になると凄い。視覚を遮断することによって、さらに音が立体的になり、音が身体を包み、音が空気の振動で直接に触ってくる実験的な体験だった。「不自由展」も、目に見える部分だけで条件反射しているのではないか。アートには制作者の思想があり、それを切り離して考えることはできない。
公式サイト:https://aichitriennale.jp/
2019/08/07(水)(五十嵐太郎)