2019年12月01日号
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artscapeレビュー

藤井素彦のレクチャー「自己疎外キュレーション」

2019年09月15日号

会期:2019/07/29

東北大学[宮城県]

学芸員の藤井素彦氏を東北大学に招いて、展示に関するレクチャーをしていただいた。現在、日本各地をまわっている「インポッシブル・アーキテクチャー」展において、彼は新潟市美術館の担当者だが、4月から7月に開催された巡回展の不規則な展示空間が大変に興味深かったからである。例えば、ダニエル・リベスキンドの展示では、脱構築主義のデザインを意識し、仮設壁をズラして配置して、ドローイングのパネルが壁から少しはみ出ていた。また未使用の仮設壁をあえて収納しなかったり、置き場がない輸送用のクレートを「旅する建築たち」と題し、やはり会場でむき出しにすることで、美術館という建築も見世物になっていた。他にも什器や椅子を斜めに配置するなど、不穏な事態が起きていた(ほとんどの来場者は気づいていなかったが)。



「インポッシブル・アーキテクチャー」展におけるダニエル・リベスキンドの展示風景


「インポッシブル・アーキテクチャー」展における「収納しない仮設壁」の例


さて、レクチャーのタイトルは「自己疎外キュレーション」であり、目黒雅叙園、高岡市の美術館と博物館、新潟の職場で、これまでにどのようなユニークな展示を試みたかを藤井氏に語っていただいた。そしてぎりぎりの条件を逆手にとって、展示そのものへの批評性をもつ企画の数々に感心させられた。驚くべき低予算で実現した「〈正・誤・表〉美術館とそのコレクションをめぐるプログラム」展(2018)は、単なるコレクションの蔵出しではなく、各作品が何度、過去に展示で使われたかを同時に明示し、絵画の設置も壁に立てかけるなど、美術館の制度を問うている。

ほかにも、日本画の展示であえてキャプションをつけない(が、「作家へのリスペクトが足りない」と指摘され、次の展示では大きな文字で、すべての作家名の後に「〜先生」を足す)、作品名がないものに複数のタイトルをつけてみる、普通の携帯電話を展示ケースに入れてみる、わざとキャプションを間違えるなど、数々の実験が行なわれていた。また高岡市博物館では、文書整理に集中し、展覧会には消極的な施設だったので、桜の時期に屋上を開放し、周囲の環境を見せる企画を提案し、年間入場者数を超える大ヒットになったという。いずれも限られた予算、人手、時間がない状況で、いかに工夫するか、という原則から導かれたものである。


藤井素彦氏が手がけたユニークな展示の実例(その1)
中途半端に壁を立て、隙間があったり、背後の空の展示ケースが見える


藤井素彦氏が手がけたユニークな展示の実例(その2)
「旅する建築たち」の看板を立て、輸送用のクレートを置く


藤井素彦氏が手がけたユニークな展示の実例(その3)
石上純也と会田誠/山口晃の展示のあいだにも「旅する建築たち」が無造作に置かれている

2019/07/29(月)(五十嵐太郎)

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