artscapeレビュー
美ら島からの染と織─色と文様のマジック
2019年09月15日号
会期:2019/08/10~2019/09/23
渋谷区立松濤美術館[東京都]
数年前、沖縄に出張した際、紅型作家の工房を訪ねたことがあった。紅型とは、沖縄に伝わる型染めのことである。私は個人的に紅型が好きで、着物や帯、風呂敷などを持っている。艶やかな友禅などとは違い、どこかほっこりと愛らしい点に魅かれるからだ。その愛らしさの秘訣は、紅型独特の隈取りという技法にある。つまり色と色とを重ねる際に、境目にぼかしを施すことで、全体に柔らかい印象を与えるのだ。という一般的な知識はあったが、実際に紅型作家に話を聞くと、この隈取りにもルールがあり、流派によってどの色と色とを重ねるのかが決まっているのだという。何事も様式美があってこそと思い知った。
さて、本展ではこの紅型に始まり、沖縄の織物や染織の道具、人間国宝や名工らの作品が紹介されていた。ここでは沖縄というより、琉球王国という方が正しいのだろう。紅型に使われる黄や赤などの鮮やかな色彩感覚は琉球王国らしいが、文様は松竹梅や牡丹、鳳凰など、日本本土とそれほど変わらないことは発見だった。一方、織物はもっと独特である。絹や木綿、麻の織物も一部あるが、それ以外の織物も多い。麻の一種である苧麻で織られた上布、糸芭蕉で織られた芭蕉布(ばしょうふ)、そして中国からの輸入糸で織られた桐板などである。いずれも軽くて薄く、ハリのあるサラリとした風通しの良い織物で、高温多湿な琉球王国では重宝された。織物の文様もまた独特だ。幾何学文様や絣(かすり)が多いのだが、植物や動物を表わしていたり、織り方に特別な意味が込められていたりする。
もっとも印象的だったのは、本展の最後に流れていた、重要無形文化財芭蕉布保持者(人間国宝)の平良敏子を追ったドキュメント映像だ。平良は、戦後、滅亡の危機にさらされた芭蕉布を復興させた功労者で、「喜如嘉の芭蕉布保存会」代表を務めている。ドキュメント映像を観ると、芭蕉布の製作には気が遠くなるほどの手間と時間がかかることがわかった。まず芭蕉の木を刈り、茎を剥ぐところから始まる。灰汁で煮出して軟らかくし、糸を紡ぎ、染めて……と一反の織物にするまでにいくつもの工程を経なければならない。染織物に限らず、結局、工芸品を伝えることは、その土地の歴史や文化を伝えることでもある。工業製品一辺倒となった現代においても、いまだに工芸品がわずかながら人々に求められているのは、そうした根っこに触れられるからではないか。かつては別の国として栄えた琉球王国の文化を垣間見られる展覧会である。
公式サイト:https://shoto-museum.jp/exhibitions/184okinawa/
2019/09/01(杉江あこ)